定価2,500円+税だから一瞬ひるんだが、前日(15日)に友人たちととった「蕎麦+一寸一杯」が2,600円であったから、ひるんだ心が貧しいと考え直し、史学で有名な奈良大学内の書店に行った。
未発表原稿などを整理したのは長女夫妻で、その夫東野治之氏は奈良大学名誉教授の著名な古代史学者だから、ここなら置いて無いことはないと考えた。
例によってこれは書評でも読書感想文でもないが、視力の衰えを乗り越えて271ページを一気に感動をもって読み終えた。
直木先生は1919年(大正8年)生まれだから、私の親の世代になる。だから戦争時代を含む近代史、そして戦後の現代史を読んでいるようで、寝るのを忘れて読みふけった。本の向こうに、80代90代でも精力的に執筆されている先生が浮かんできた。
興味深い論文は多いが、一つだけ絞って挙げると、「森鴎外は天皇制をどう見たか――「空車」を中心に――」がある。
鴎外の原文も載っている。難解だ。その意味するところは、「多年の官職の重荷を下して空になった我身の似姿」とするのが通説らしいが、別の小説「かのやうに」と重ねて先生は鋭く論評され、最後に、「明治・大正の日本では、論理を徹底させようとすると、至る所に危険が待っていた。その危険は昭和の前半期まで続いた。私たちは鴎外のあいまいさや妥協を批判するのでなく、その時代を生きた学者・思想家の困難を思うべきであろう。 そしてそういう不自由な時代が、ふたたび日本にこないように努力すべきである。・・と閉められている。
奇しくも「そういう不自由な時代」が再び鎌首を持ち上げている。70歳代80歳代で「もう歳だから」などといっている場合でない。
感想があふれて書ききれないが、この本、購入するか、図書館で借りるか、一読して損はない。いや、多くの人に読んでほしい。

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