古い話で恐縮だが、2016年1月1日付しんぶん赤旗元日号のトップ記事は、上智大学中野晃一教授と共産党志位委員長(当時)の新春対談で、話は「立憲デモクラシーの会」の中心メンバーで2015年の市民運動の立役者の一人であった中野氏だけに内容の濃いものだった。
その対談の中の「メッセージの伝え方」という「中見出し」の部分で中野教授は次のように「指摘?」されていた。
■・・例えば、シールズ(自由と民主主義のための学生緊急行動:秘密保護法や集団的安保体制に反対して立憲主義を強く主張した団体)の皆さんと理念などを議論すると、「ではどうやってそれをビジュアル化するのか」ということを徹夜作業並みの時間をかけて議論する。
・・「学者の会」などはおそらく自分たちは正しいメッセージをもっているから、それは伝わるだろうという、ある種のおごりもあるんだと思う。
・・もう一つは、伝えたい相手に対する敬意、若者の言葉でいうとリスペクトで、われわれに欠けていた。
・・われわれ大学の教員と共産党というのは似ていて、同じようにうっとうしいように思われている(笑い)。常に正しい答えを知っていて説教しているようなところが多分にある。
・・メッセージの伝え方について、もっと謙虚にあるべきではないか。・・・・など。■
これを読んで私は大いに反省した。
例えば、「ニュース」をつくるにあたって、ともすれば、どこかで読んだ文章をつなぎ合わせたようなお説教口調になっていないか。
一本調子で政治や社会への不満や怒りの言葉だけになっていないか、と。
それからは、記事にしても、(ニュースの)送付状にしても、どこまで到達できたかは別にして「読んでくださる方へのお手紙のような気になって書こう」という風に気持ちだけは努力してきた。
そして今回の選挙である。
冷静に見て政策は格段のピカイチ。役員や候補者の人間性もピカイチ。ところが・・、
以上の中野教授の指摘のような「初心」を大事にして「メッセージの伝え方」を我々はどれだけ話し合ってきただろうか。
人間には得手不得手があるから全員がITエンジニアのように発信はできないが、赤旗が「LINEで呼びかけよう」「SNSで広めよう」とあれほど訴えていることに、「できる範囲で前向きに」とのレベルでもよいからほんとうに話し合ってきただろうか。
先の都知事選挙の結果についてもリアルに話し合ってきただろうか。
実は私は都知事選挙の結果について、石丸伸二氏の得票が蓮舫氏を上回ったことについて腰を抜かさんばかりに驚いたが、正直に言うとそれは東京の何かの特殊事情だろうとそれ以上の思考を停止していた。これも正常化バイアスの一種だっただろう。
後に振り替えると、石丸氏が安芸高田市長時代に「無駄極まりない?」市議会と対決したという短い動画がネット上でおびただしく支持され拡散されていたのだった。
そう考えると、電車の中で新聞を読んでいる人は皆無に近くなり、反対にスマホを見ていない人も少数になっている。特に若い世代はそうである。
新聞は読まず、テレビのニュースさえ見ず、情報はもっぱらネットニュースで得ている人が多数になりつつある。好むと好まざるとにかかわらずこれが現実である。
普通の勤労者、普通の家庭人がそうなのである。
そういう現実を前にして、「嘆かわしい」といくら怒ってみても社会はよくならないのではないか。
社会の多数から見ると「ネット関係には一切タッチしたくない」というのは鼻持ちならないヘンコツ(偏屈)と映っていないだろうか。そういう仲間内だけではそうは見えないけれども社会全体を見渡せばそんな気がする。
「ネット上のワンフレーズに流されるな」「ネットにばかり頼るな」という言葉もまたネット上で「単純明快」に拡散しなければ対抗する力にならない。
少なくとも、ネットに接触しないことを自慢することだけはもうやめよう。
ただ、この「メッセージの伝え方」はそんなに難しいことではない。
スマホさえあれば、大元の素晴らしい動画などをシェアして拡散するだけのことでも大いに違ってくる。
自覚的な人々が一歩そこへ足を踏み出すと、雰囲気は一気に変わる・・とは言いすぎだが、まあそういうことである。
そういう意味ではブログに重心を置いていた自分自身大いに反省している。
短い動画や写真中心のTikTok(ティックトック)も馬鹿にせず、いつでも参加できるようにしておこう。TikTokは見るだけで発信はしていなかった。
次の話に移ると、日本の現代人だけが世界で特殊なはずはないということで、アメリカのトランプ現象やヨーロッパの極右政党の伸長と通ずるものがないかということである。
その日本での先行事例は維新だと思うが、生活上の不満は「あなたの身近にいる怠け者(敵)のせいだ」というロジックである。
維新でのそれは生活保護などの人々であり、今回でいえば「高齢者には退場してもらおう」という他党の主張でなかったか。
早い話が、「手取りを増やす」「消費税減税」「子育て手当」等々のワンフレーズだった。ここは物事の本質から目をそらすバラマキ施策やオポチュニズム(ご都合主義)ポピュリズム(大衆迎合主義)に堕しやすい危険があるところだが、宣伝戦では軽視できないところではないだろうか。
歳をとると足腰も弱くなる。そういう現実を横において「地力をつけて捲土重来」みたいなことだけを言っても、それだけでは上手くいかない気がする。
参議院選挙まで1年もない。ことは急ぐ。