2023年7月29日土曜日

汚染水の理解を深める

   汚染水海洋放出問題で『
原発・エネルギー・地域経済研究会』(代表 𠮷井英勝氏)が見解を発表した。
 汚染水問題の理解を深める上で参考になると思うので、薮田 ゆきえ氏のFBから要旨を転載させていただく。

 🔳トリチウム汚染水海洋放出を考える
            2023年7月 
 (トリチウム対策は複眼的、総合的に行うべきではないか) 
            原発・エネルギー・地域経済研究会

 汚染処理水(トリチウム水)放出とは? 

 政府は国際原子力機関(IAEA)の調査報告書を受け、国際的機関の「承認」を得たとして、いよいよこの夏にも福島原発汚染水の海洋放出を行おうとしている。
 トリチウム濃度を国の基準6万ベクレルの40分の1の1500ベクレル未満になるよう、海水で100倍以上に薄めて沖合1kmから海水中に放出するという計画である。
 しかしIAEAのグロッシ事務局長の発言は、「ロンドン条約に加盟している日本が、放射性物質の海洋放出(投棄)を行うことは、IAEAの許諾を求める事項でなく、締約国政府として、おのずから判断してふるまいなさい」と読み取れる。 
 決してIAEAの報告書があればとOKいうことではない。

 合意なくても強行! 
 
 政府・東電はこれまで文書で、合意なしには放出(投棄)は行わないと約束してきた。
 現段階で、地元の合意は必ずしも得られていない。特に漁業関係者の合意は全く取れていない。 
 海水浴シーズンは「汚染水(「処理水」)の投棄は延期する」などという発言もあるが、そこに生きている海洋生物・魚群には全く無意味であり、漁業者との合意を守ることは当然である。 
 しかし東電関係者は「合意は必要条件ではなく、合意があれば十分条件で、合意は放出には必要ない」と「豪語」している。これまでの立場を公然と変えたと言える。 
 「海洋放出以外の対策なし」と、一方的に放出するのは大きな問題を抱えている。
 
 原子力施設からのトリチウム放出、世界では? 

 まず放出されるトリチウムの量だが、福島第一原発からは1年間に22兆ベクレルとされている。私たちから見るととてつもない量に思えるが、実は環境省の資料によると、日本を含めて世界で稼働している原子力施設からはトリチウムは常に放出されている。同資料によると、トリチウムだけに限ってみれば、強硬に反対している中国の原子力関係施設では、紅沿河原発からは年間に87兆、福清原発からは52兆、韓国の古里原発からは91兆(それぞれベクレル)排出されているとされている。再処理施設などからはさらに大量に排出されている。
 原子力施設があれば膨大な量のトリチウムが排出されているということで、原子力関連施設そのものの存在を問題にしなければならない。  

 放射性物質は薄めれば安全か?   

 政府・東電は「薄めれば安全」という考えで、「基準」(絶対的に安全という基準とは言えない)以下にするので安全としている。  
 しかしこの考え方は、かつての「大気汚染公害対策」の発想と同じである。「煙突を高くして「広域に拡散すれば大気汚染の濃度は下がる」と企業・政府・自治体は主張して実行した。しかし、汚染物質の総量を減らさない限り公害はなくならないと、学者・専門家・住民が主張して、「汚染の拡散方式」を止めさせ、大気汚染を克服してきた歴史がある。同じ過ちを繰り返すべきではない。
  
 福島の処理水の特殊性:他の放射性物質も 

 では、福島第一原発からのトリチウムの放出量は少ないのだからOKかというと、そうもいかない。福島の汚染水は、直接デブリに触れて、セシウムやストロンチウムなどの放射性物質を含んだ廃液である。アルプスで処理して、さらに薄められるのでこれらの放射性物質の放出基準より薄くなるので大丈夫という考えのようだが、ゼロになったとはしてない。トリチウムの半減期約12年程度と比べ、より長い物質もあり、また生体内の滞在時間もトリチウムより長くなる物質もある。トリチウムも生体内に入り、組織を構成するものになれば、濃度は薄くてもベータ線などで細胞・DNAを傷つける可能性があり、DNA修復が成功しなければ生体に影響を与える。また他の放射性物質は蓄積効果の問題が起きないという保証もない。 

 貯蔵タンク減少は年間わずか・何十年もかかる全量排出 

 この処理水排出計画は、日本の排出基準6 万ベクレル/㍑の40 分の1の1500ベクレル/㍑にして放出するとしている。つまりアルプス処理をした水を更に100倍くらい海水で薄めて放出するというのであるので、1000基以上ある貯水タンクのうち1年に減らせるのは10 基、どんなに多くても20 基位までである。つまり今ある分がなくなるだけでも50年以上はかかるという計算になる。その間、今でも毎日汚染水のくみ上げは1日90㌧といわれ、新たに汚染水が毎日発生し、排出期間はさらに延びる。
 
 新たな放射性汚染物質貯蔵も大きな課題 

 その間にアルプスで処理するときに発生する汚泥(スラリー)を別に保管しなければならないが、それを保管する高性能容器(HIC)の保管庫も満杯になり、新たに次々50年以上造設し続けなければならない。容器自体の劣化で更新も必要になる。新たな敷地占拠になり、廃炉作業の土地確保にブレーキをかけるであろう。 

 汚染水発生を根本から止めることが一番の対策 

 つまり汚染水の源である地下水の流入をゼロにすることが一番先に手を打つべきことである。その対策は、通常行われている土木工事だけなので十分可能である。学者などのグループも提案しているが、それを政府・東電は全く検討していないようである。事故後しばらくして、当時1000億円くらいの工事費を考えて、選択しなかったという報道があったようだが、防潮堤造設を「ケチって」先延ばししたのと同じ考えのように思える。根本的な対応策を打たないで、目の前だけの解決を図ろうとしても対応はますます困難になるだけである。
 当研究会としては、自然界や復興を図っている地域に影響を与える危険性のある「海洋放出」でなく、トリチウムの半減期(約12年)を考え、汚染水発生ゼロと併用して、複数の処理対応策を選択・実施すべき時だと考える。

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