2020年6月1日月曜日

山中教授 ファクターXを探せ!

 山中伸弥教授による『新型コロナウイルス情報発信』という記事は、私としては非常に理性的というか常識的というか、読んで納得させられる話が多い。5月30日付の『ファクターXを探せ!』では次のように述べられている。

 新型コロナウイルスへの対策としては、徹底的な検査に基づく感染者の同定と隔離、そして社会全体の活動縮小の2つがあります。
 日本は両方の対策とも、他の国と比べると緩やかでした。PCR検査数は少なく、中国や韓国のようにスマートフォンのGPS機能を用いた感染者の監視を行うこともなく、さらには社会全体の活動自粛も、ロックダウンを行った欧米諸国より緩やかでした。
 しかし、感染者や死亡者の数は、欧米より少なくて済んでいます。何故でしょうか?? 私は、何か理由があるはずと考えており、それをファクターXと呼んでいます。
 ファクターXを明らかにできれば、今後の対策戦略に活かすことが出来るはずです。

 ファクターXの候補
 1・クラスター対策班や保健所職員等による献身的なクラスター対策
 2・マラソンなど大規模イベント休止、休校要請により国民が早期(2月後半)から危機感を共有
 3・マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識
 4・ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化
 5・日本人の遺伝的要因
 6・BCG接種など、何らかの公衆衛生政策の影響
 7・20201月までの、何らかのウイルス感染の影響
 8・ウイルスの遺伝子変異の影響
などが考えられます。

 遺伝的要因については、私たちもiPS細胞を使った研究を開始しています。しかしファクターXの実態が明らかになるまでには時間がかかります。
 今後、社会活動の制限を最小限に抑えるためには、実態不明のファクターXに頼ることなく、医療体制の整備と共に、検査体制、感染者の同定と隔離体制をしっかり整えることが重要です。(引用おわり)

 1 については「献身的」というような情緒的な言葉でなく、医師や医療従事者の数、労働条件、高度医療に対応する病床数、同医療機器数、対応できる従事者数、保健所の個所数と人員、研究機関の数と人員などと予算などがシビアに比較検討されるべきだろう。

 2 についても「危機感の共有」の比較検討が必要だろう。

 34 については確かに要因の一つであるように思うが、オーストラリアの少なさをどう見るかということがあるので、過大な評価はできないと思う。またアジア全体で検討した場合、衛生環境が欧米に比べて100倍も優れていたとは思えない。


   5678 についてはアジア、オーストラリアでの感染者数や死亡者数の少なさという特異性から、やはりここにファクターXの大きな要因があるように想像される。
 そういう意味で、各種研究者の結果を注視したい。

 右の表は日本医事新報Webの5月20日菅谷憲夫慶大教授の論文の中のものだが、人口当たりの死亡者数でいえば日本はアジアではフィリピンに次いでワースト2であるし、その論文では日本の感染者数は「信頼できる数値とは言えない」と述べられている。


 菅谷教授は、欧米とアジアとの死亡者数には,100倍の違いがあるが,原因は不明である。可能性として考えられるのが,人種の差,年齢構成の違い,すなわちアジア諸国では若年層が多い,③BCG接種の影響,欧米諸国では,高い感染力を持ち病毒性の強い,アジアとは別のSARS-CoV-2流行株が出現した等が考えられる。としている。ただ②の年齢構成は日本には当てはまらない。


 論文の「おわりに」は次のように述べている。
 日本では,欧米と比較してSARS-CoV-2死亡者数は少ないことは事実である。しかし,それは日本の対策が成功したとか,優れていたわけではない。アジア諸国の感染者数,死亡者数は,欧米に比べて,圧倒的に少ないのであり,その中では,最大級の被害を受けているのが日本である。今,第2波の問題が世界のトピックとなっているが,日本を含めたアジア諸国では,第2波は,欧米諸国と同じような激甚な流行となる危険性もある。そのため,日本の第2波対策は,欧米の被害状況を詳しく分析して,慎重に立案,準備する必要がある。特に今季は,A/香港型とB型の大規模なインフルエンザ混合流行が予測され,インフルエンザとSARS-CoV-2の同時流行にも備える必要がある。

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