2017年5月18日木曜日

安倍首相の改憲表明 その黒子

 自民党の石破茂が、5月3日に突然表明した安倍首相の「憲法9条3項に自衛隊を明記する」という憲法改正案に、「これまでの自民党内の議論は何だったのか。自民党改憲草案とまったく違う」と怒り心頭と報じられている。
 自民党改憲草案は最悪のシロモノだし、それをリードしてきた石破の主張も同様だが、安倍晋三首相・自民党総裁が、最低限の自民党内の党内民主主義も踏みにじって、党外の「闇の黒子」の意を受けて行動していることが石破発言で明々白々となった。

   そしてその「闇の黒子」が、安倍晋三の筆頭ブレーン、日本政策研究センター代表伊藤哲夫であることも以下のとおり明白となった。伊藤哲夫は日本会議の常任理事でもある。
 そも伊藤哲夫は、同センター機関紙「明日への選択」2016年9月号で、「憲法9条に3項を加え、『但し前項の規定は確立された国際法に基づく自衛のための実力の保持を否定するものではない」といった規定をいれること」を提起し、同センター小坂研究部長は、「自衛隊を明記した3項を加えて2項を空文化させるべきである」と述べている。
 さらに伊藤哲夫は、これによって自衛隊の存在を認めている人々を引き寄せて「護憲派にこちら側から揺さぶりをかけ」ると野党や市民分断の意図をあからさまに語っている。

 では、首相を操る伊藤哲夫とはいったい何者だろう。
 伊藤の兄は宗教法人・生長の家本部に勤めていたと、右翼団体一水会で有名な鈴木邦夫が語っている(「日本会議の正体」の本に書かれている)。
 本人伊藤哲夫は、少なくとも1976年(昭和51)には生長の家(教団)の中央教育宣伝部長であった。
 その頃、1980年(昭和55)に『憲法はかくして作られた』という本が生長の家本部政治局から発行されている。
 そして、1983年(昭和58)に生長の家が政治活動を中止した後、2007年(平成19)に同じ内容の『憲法はかくして作られた』の本を伊藤哲夫著として発行している。
 その内容が右翼の改憲運動の教科書のようになっているようだ。

 1983年の生長の家の路線変更にはいろいろ理由があるようだが、少なくとも2016年には、「日本会議の主張する政治路線は、生長の家の現在の信念と方法とはまったく異質のものであり、・・ 安倍政権の政治姿勢に対して明確に「反対」の意思を表明します。」とHPに掲げている。
 この生長の家の路線変更に、ついて行かなかったメンバーが、谷口雅春(初代総裁)先生を学ぶ会などの生長の家本流運動(いわば生長の家原理主義)を展開しており、彼等のことを現生長の家の先の「表明」では、「元信者たちが・・すでに歴史的役割を終わった主張に固執し・・活動をおこなっていることに対し、誠に慙愧に耐えない・・」と指摘している。

 こうして、1983年の生長の家の路線変更の翌年1984年(昭和59)に、足場を失った伊藤哲夫は日本政策研究センターを設立した。
 その後は、安倍晋三とともに2001NHKの「女性国際戦犯法廷」を‟事前に知って”抗議活動を行うなど、安倍晋三の私的ブレーンとなり日本の右翼運動の主要な指導者となっていった。(それらの事蹟は本に詳しい)

 その改憲のための運動方針を、2015年日本政策研究センターのセミナーで配られたレジュメ「憲法改正のポイント」からみると、
 1 緊急事態条項の追加
  非常事態に際し、「三権分立」「基本的人権」等の原則を一時無効化し、内閣総理大臣に一種の独裁権限を与えるというもの
 2 家族保護条項の追加
  憲法13条の「すべての国民は、個人として尊重される」文言と、憲法24条の「個人の尊厳」の文言を削除し、新たに「家族保護条項」を追加するというもの。
 3 自衛隊の国軍化
  憲法92項を見直し、明確に戦力の保持を認めるというもの。
 ・・・であり、 

 質疑応答で、「我々(生長の家原理主義的右翼?)は、何十年と、明治憲法復元のために運動してきたのだ。・・周りの人間にどう説明すればよいのか?」との質問に、主催者側の回答は、「もちろん、最終的な目標は明治憲法復元にある。しかし、いきなり合意を得ることは難しい。だから、合意を得やすい条項から憲法改正を積み重ねていくのだ」という趣旨だった(日本会議の正体)という。
 こうして、前述の「明日への選択」2016年9月号とぴったりと結びつく。

 最後に、彼らの心の師、生長の家初代総裁谷口雅春に触れると、谷口雅春は1930年に生長の家を創設。戦中は戦争遂行を全面賛美して、「大日本帝国は神国なり」「大日本天皇は絶対神にまします」「大日本民族はその赤子なり」と主張し、戦後は、国民主権の放棄と天皇主権。現行憲法破棄と明治憲法体制への復古を主張した。
 宗教的には、「病的思想が無くなれば病気が無くなる」と「病気の治癒」「人生苦の解決」で信者を拡大したが、信者でもあった鈴木邦夫に言わせると「宗教という以前に愛国運動をやっているところと思っていた」と述べている。
 1960年浅沼稲次郎殺害の山口二矢も1970年三島事件で自刃した森田必勝も谷口雅春信奉者だったと言われている。

 『日本会議の研究』という本によると、宗教家的なカリスマ性は、安東巌が引き継ぎ、その弟子が伊藤哲夫、その弟子が安倍晋三ということになろうか。
 なので安倍首相の主張は、決して「現に存在している自衛隊を書き込むだけ」ではないのだ。
 私はマヌーバー(策略)という言葉を久しぶりに思い出した。
 本音で言うところの常軌を逸した戦前復帰の運動が巨大なエネルギーで進行している。
 基本的人権を制限して世界中で戦争できる国というのが彼等の本心であり目的だ。
 こんな企みを絶対に許してはならないと思う。
 この記事は、日本会議の正体(平凡社新書)、日本会議の研究(扶桑社新書)に基づいて執筆した。

    草藪に紫蘭自己を主張せリ

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