2020年12月11日金曜日

パタゴニアエビ

   昔「エビやカニは海の中にいる虫やから食べない」という先輩がいたが、テレビで東南アジアの市場で食材としてセミやタガメが売られているのが紹介され、日本の俳優などが「エビみたいな味だ」と感想を述べているのを見ると、逆説的に「エビやカニは海の中にいる虫」説に拍手を送りたい気になる。

 日本が飽食の時代だったころ(今もそうかもしれないが)、そしてベトナム戦争の記憶が皆の常識であったころ、テレビが日本企業が進めるベトナムの大規模なエビの養殖を追いかけて、薬剤の散布などで海が汚染されていく問題を告発していた折、大量のエビが現地の低賃金労働者によって頭を取るなどの作業を経て日本に送られて、夕刻には住民が「残った」頭だけを食材として買い求めているシーンがあった。

 番組の流れとしては、飽食のニッポン、頭しか食べられないベトナム、これでいいのか?というトーンであった。しかしインタビューに答えた主婦は「エビは頭の方が美味しいの」(言外に「不味い方の身だけを高いお金で買っていく日本人は変」)と言ったので、私はひっくり返ってしまった。正解である。通である。

 近頃スーパーにアルゼンチン赤エビというのが廉価でよく出ている。ボタン海老のような濃厚さには欠けるが、値段に比べれば結構楽しめる。有頭で比較的大きいから調理したときに見栄えもする。アルゼンチンが東南アジアのように大規模な養殖を始めたのかと思ったが養殖ではなく、深海で漁獲するらしいからある意味身の柔らかい(味が薄い)のも納得できる。しかし、マグロのように世界中の海を日本が荒していないかとも心配する。私個人としてはアルゼンチン赤エビという名前よりも別名のパタゴニアエビにしてくれた方がよい。

 先日シーフードの料理用に買ってきて美味しく戴いた。ただ今回は頭は取ってフライパンで軽く空焼きにして、その頭で味噌汁を作った。答えはメーンの料理に引けを取らない一品になった。あの日のベトナムの主婦の言うとおりであった。

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