2015年5月18日月曜日

〈凡庸〉という悪魔―を読んで

 大阪市の住民投票は賢明な結論を出したが、約半数の「賛成」票という状況を私たちは冷静に考える必要があると思う。
 その場合、少し大阪固有の問題から引いて、現代社会に共通する問題として検討する必要があると思う。
 この本は、その際の参考になるに違いない。

   著者・藤井聡氏の(顔)写真はあまり私の好みではない。その上に第二次安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)というのも通常ならその本に手を伸ばす意欲の湧かない肩書きだし、別の著書では大阪の復興策としてリニアと西日本の新幹線網の提言のあるところも違和感がある。
 その私が、この本、〈凡庸〉という悪魔―21世紀の全体主義 を読んだのは、大阪都構想をめぐるネット上の動画で氏の発言を見たり読んだりして、人は見かけで判断してはならんと反省したからである。
 
 曰く、・・・今日、多くの組織や集団に「空気」というようなものを含む「全体主義」がはびこっている。
 従わぬ者ははじき出す、昇進させない、いじめる、そういう恐怖を含む暴力が行使されている。
 「全体主義」における7つの特徴は、① 思考停止 大衆人達の思考停止。全体主義が現れる大前提。 ② 俗情 大衆人達の俗情。全体主義現象を駆動するエネルギーの源泉。 ③ テロル 全体主義現象の必然的帰結として遂行される暴力行為。 ④ 似非科学 テロルを中心とした全体主義活動を正当化するための「後付け論理。 ⑤ プロパガンダ 後付け論理/似非科学を無理矢理正当化するために繰り返されるもの。 ⑥ 官僚主義 全体主義における諸活動の効率化のためにあらゆる領域で横行する。 ⑦ 破滅 全体主義活動を推進した場合に必ずたどり着く終着駅。・・である。
 それにアメリカからの圧力を加えた「新自由主義」全体主義がこの国を破滅にむかって牽引している。
 ・・等々ということを多くの事実をあげて著者は指摘している。
 ともすれば、「これは仕方のないことだ」と私自身がとらわれているかもしれない「グローバリズム」ということや「改革」と称されることも、周到に練り上げられた 21世紀の全体主義 の掌の上の話らしい。
 橋本行政改革や郵政改革、事業仕分け等々を相当な至近距離で見聞きしてきた私としては、こういう 「新自由主義」全体主義 という切り口で分析・総括される「論の構築」にある意味「目から鱗」の感を抱いた。
 
  刺激的な事実のひとつに郵政民営化時の「B層」問題がある。
 小泉内閣が郵政民営化の世論形成のための作戦を有限会社スリードという広告会社に発注し、「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)」という企画書を受け取った。
 そこには「B層にフォーカスした、徹底したラーニングプロモーションが必要と考える」とあり、つまり、IQの低い「新しいモノ好きのバカ」が世論の趨勢を握っているとあった。
 つまり、B層は構造改革がどういう性質のものであるかを知らないし、知ろうともしない。ただ、「改革=新しい=なんかよさそう」という程度のイメージしか持っていない。このB層に決定的な影響を与えるのはA層の財界勝ち組企業、大学教授、マスメディアだからここを「学習」させ活用する・・だった。
 こうして小泉首相は、「改革なくして成長なし」「聖域なき構造改革」といったワンフレーズを繰り返し繰り返し、マスコミは「冷静に考えよう」という人々を「抵抗勢力」と名付けて、「刺客」問題を面白おかしく囃し立てた。
 著者も同感だろうが、大阪都構想はこの延長線上にあった。

 この本で強調されている問題のひとつは、タイトルにもある「凡庸な庶民」の「罪」である。
 いろんな共同体の中でつちかわれてきた社会的な規範が希薄化した無規範状態(アノミー)の下で、公務員や正規雇用者に対して抱く嫉妬、怨恨、憎悪というルサンチマン。
 「日本人は立派だ」という選民思想とヘイトスピーチ。
 出世と保身に明け暮れる「社畜」。
 ふわっとした大勢の尻馬に乗ることで抱く安心感。
 「上から言われて従ったまでだ」という言い訳で安心して行う弱い者いじめ・・・・・これらは私の解釈を含めたが・・・・・そういう「凡庸な思考停止をした庶民」こそが全体主義を推進し、かつてのナチズムを生んだのだと、いろんな論を引いて著者は指摘している。
 1970年代には「小市民」などと言って笑っていたが、この本を読むと笑ってばかりではいられない。
 ほんのさわりだけを書いてみたが、非常に読みごたえのある本だった。
 各種問題提起の判断は、とりあえず読んでみてから各自がおこなってもらいたい。
 「一人ひとりが考える」ことこそが大事なことなのだから。

11 件のコメント:

  1. 生きた心地がしない投票日でしたが、土壇場の良識を示しました。
    ほんまに生きた心地がしなかったですよ。
    投票所に朝から続々と集まる人を見て、普段は選挙に行かないけれどこれはやばいとおもって
    わざわざ止めに来たんやと思います。命拾いしました。

    返信削除
  2.  「結果」だけを喜んでいる場合ではないかもしれません。現代社会が孕んでいる危うさに背筋がぞっとしました。私なりに、この機会にこの本の指摘している現状認識を広める必要があると思います。若い人から人生の先輩にあたる人々への注文などを聞かせていただければ幸いです。mykazekさん、ありがとうございました。

    返信削除
  3.  僅差の勝利でも勝利は勝利、大阪市が今後どのような街になっていくのか?住民サービスは?カジノは?、大阪市の財政は?・・・・私が一番良かったと思う事は、これで、安倍晋三と橋下徹=改憲が、公的には暗躍出来なくなったことです。長谷やん、大阪市民、本当に本当に有難う御座いました。

    返信削除
  4. 長期にわたって、「都構想」のインチキを多様な面から糾弾、指摘された長谷やんのブログの労に敬意とお礼を申し上げます。結果として嬉しいですがやはり約半数の人が賛成したことが忘れられません。これからもブログでの冷静で夢のある情報と分析をお願いします。

    返信削除
  5.  バラやん、スノウさん、コメントありがとうございます。
     少し落ち着いて真面目な議論をすることをKY(空気の読めない奴)と嘲笑って「空気」に乗ることを是とするような風潮を変えていくことの重要さをひしひしと感じています。
     でも「ココロは大阪人」、どこかでクスッと笑っていただけるブログを目指したいと思います。

    返信削除
  6. 私はほとんどTVを見ません。家人が見るTVには文句は言えません。昨日も瞬間的に見たニュースで大阪の住民投票で投票を済ました人のインタビューをしていました。賛成派の中年のおじさんは「未来がないから改革をせんとアカンと思う」。反対派のおばちゃんは「大阪市が無くなるのは不安」と言っていました。おじさんの弁の方が何か理屈が有りそうですが思考停止でおばちゃんの方は感覚的ですが「不安感」を持っているには何か考えていると・・・長谷やんのブログでの藤井氏の動画や著書の解説で思いましたが的外れでしょうか。

    返信削除
  7.  小泉内閣時の戦略案に言わせれば、おじさんはB層、おばちゃんはD層でしょうか。藤井氏的に言えば、どちらもよく考え賢くなることが大事ですが、おばちゃんの「何か不安」「そんなうまい話は何か胡散臭い」には救いがありそうです。
     今後は、いろんな局面において、戦略案のB層戦略を打ち破る理性的な言論戦に強くなることが大切であるように思います。
     談論風発、いろんなコメントをこれからもお願いします。

    返信削除
  8. ぼくは、都構想は曖昧だからこそ、みんなが勝手に自分の願望を反映させることができて、そのために力を持っていたのだと思います。中身が具体的になるにつれて「これはおかしい」と思う人が増えました。幻想を砕くには、具体的な改革を訴えることが必要だと思います。

    返信削除
  9.  mykazekさん、同感です。曖昧にしておくこと、しっかり説明しないこと・・そこが彼らの戦略なのですね。
     「ようわからんけど・・」のままにしておく方が人気が出るのです。
     「戦略案」のB層対策です。
     それを相変わらずテレビの中で「前向きに改革をしようと考えた若い層が敗れた」的に解説するコメンテーターの薄っぺらさには辟易します。
     これを批判し克服しないと気付いたときには全体主義が仁王立ちしていることでしょう。

    返信削除
  10. ぼくもコメンテーターのレベルの低さには呆れました。本を読まずに書評するようなレベルです。橋下市長でさえ、自分の政策のどの部分が受け入れられず、なぜ敗北したかはわかっていると思いますが、コメンテーターにいたっては内容をわかってないですからね。ただ、橋下氏が退場してもコメンテーターは退場しません。マスコミの改革派を求めるのが大事なのかもしれませんね。

    返信削除
  11.  辛坊治郎氏がひどいようですね。場合によっては後継者として市長選に出るのでしょうか。
     真面目な議論がどう広げられるか、じっくり考え意見を交流していきましょう。

    返信削除