2015年5月25日月曜日

二重行政の無駄?

  橋下・維新が「大阪府があって大阪市があって二重行政で無駄である」と言って住民投票を仕掛けたとき、私は、「りんくうゲートタワービルとWTCビルの失敗は行政組織の問題ではなくバブルに踊った政策の誤りだ」「大学も病院も必要なもので二重行政には当たらない」「いわゆる都構想では数多くの一部事務組合ができるから言うならば三重行政じゃないか」と反論してきた。
 真正面から二重行政論にぶつかりたい。大阪的に正味の算盤勘定でも橋下・維新の主張は当たらないと反撃したいと思ったからである。
 しかし正直なところ、この住民投票が持っていた大きな意味が、最終盤ないし開票後にじわじわと判ってきたというか勉強になっている。「何を今頃」と笑って欲しい。
 結局これは、橋下氏の目新しい問題提起ではなく、橋本行革、小泉構造改革から継続する「市場原理主義」(一般には新自由主義と言われる)の主張(戦略)であるという捉え方が私自身弱かった。
 だから、あの荒ましい言論戦の中でプラスになったかマイナスになったかは解らないが、突き詰めれば、「二重行政は当たらない」というレベルではなく、「二重行政が何が悪い」よりもさらに突っ込んで、「民主主義には無駄が必要なんだ」「効率的な政治システムは民主主義の敵なんだ」「非効率は先人の知恵なんだ」と(ああ、相当誤解を生みそうだが)、そういう風に腹を据えて考え、語ることも必要ではなかったかと反省している。
 21日付け朝日新聞5面の内田樹氏の寄稿は「三権分立も両院制も政令都市制度も、どれも権限と責任を分散し、一元的にことが決まらないようにわざわざ制度設計されている」「その複雑な仕組みを運用できるだけの知恵と技能をこれらの制度は前提にしており、それを市民に要求している」と重要な指摘をしている。(文脈から推定すると、橋下氏にはそういう知恵と技能がなかったと告発しているように思われる)
 「官から民へ」「小さな政府」「効率第一の構造改革」・・いろんな言い方で「奴らは既得権益者だ」とパッシングすることが正義のような一連の風潮(実は周到に準備された世論操作・戦略)に、もっと根源的に異議申請することが大切だと、今さらながら反省している。
 市場原理主義(新自由主義)がどれだけこの国を劣化させたかという分析と告発(主張)が非常に重要ではないだろうか。目前の課題が多いからといって、そういう議論をおろそかにしない方がよい。

5 件のコメント:

  1.  この記事は、相当誤解を生むかもしれないし、今の社会の現状からすると多数意見になるのは困難かもしれない。しかし、「真理は初めは少数派である」とは湯川秀樹博士の明言。正しいと思う意見は主張し、議論が広まるようにしなければならない。
     「民主主義は手間暇がかかる」と嘆くのでなく、「手間暇をかけなければならない安全弁が民主主義を守る」との常識を広める必要がある。
     「効率第一」「無駄を省け」の先には『全体主義』が待っている。統計上「豊か」なはずの国民が貧しい心でののしりあう社会がいいはずがない。

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  2. 大きな流れではその通りだと思うのですが、公害論争の時に、宮本憲一氏が、公害論争は科学論争であってイデオロギー論争であってはいけないと述べていました。ぼくは、あえて反対派が細かく財政効果の論拠を述べ、冷静に反論してきたのが最後に効いたと思います。財政効果が2700億円と1億円では全く違いますが、住民投票の公報に全然違う主張が並べられました。これを自信を持って出せたのは反対派の科学の目だったかなと思います。たぶん大阪の市会議員がいま全国一財政に詳しいはずなので、これを糧に街を作ってほしいです。

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  3.  mykazekさん、エエカッコ言うわけではありませんが、大論争の最中には「ありきたり。通りいっぺん」の主張ではなく、いろんな角度から分析した科学論争が大切だと思います。そして、そういう観点から私なりに主張してきました。
     それはそれとして、普通の良識ある市民の多くが、「やっぱり効率的な地方自治がよい」と思ったことも確かだと思うのです。せっかくの機会であったのですから、本来の地方自治とはどうあるべきか、もっと言えば地方公務員である公務労働者はどうあるべきと考えるのか、そんな根源的な主張があってもよかったのかと・・ないものねだりのような思いが湧いています。
     でないと、もう少しスマートな人物が「無駄を省こう」「効率的な地方自治を」と言ったときに、この国の地方自治は『民主的に』に崩壊する危険があるように思うのです。

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  4. 本当は自治体の労働組合が正面からあるべき自治体像について声を出すべきだったと思うのですが、そういう声は聞こえてきませんでしたね。
    ただ、二重行政批判の標的となってきた市の大型開発部門や第3セクター部門などは、公営企業の性格を持つとはいえ、実務的な経営能力が必要です。それなのに、市はプロフェッショナルの職員を養成せず、幹部職員はローテーションで回すような人事をしていたから、いかにも役所らしい問題先送りで次々と破綻したのだと思うのです。先進的な自治体の労働組合はかつては財務分析をしたりしていましたが、そういう問題をクリアしないと新しい自治体の担い手が育たないと思います。うちの職場も同じですが…

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  5.  ゼネラリストとスペシャリストの長所を引き出す人事政策はほとんどの官民の組織で上手くできていませんね。
     積極提案を期待しています。

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