2016年6月26日日曜日

イギリスの国民投票

 勉強不足の為、一般に報じられている情報にしか接していないが、対岸の火事ではすまないような気分にさせられている。
 イギリスの経済を論じる場合は、1980年代のサッチャーの構造改革路線を避けて通れないだろう。
 国営企業であった鉄道、エネルギー、電気通信等を民営化して、石炭等の産業を容赦なくスクラップして失業者が増大した(日本の話ではないのを念のため)。
 一方で「新自由主義」の名の下に「シティー」を象徴とする金融業をビルドして格差が拡大した(日本の話ではない)。
 そういう閉塞感という土壌の上にEUは、緊縮財政を各国に強制したのだから、ギリシャだけでなく、欧州労連等も緊縮反対の運動を強めている。
 日本と大きく異なるのは、さらにその上に東欧からの移民、中東からの移民・難民が大規模に雇用を奪い、労働条件を引き下げる働きをしていることである(その規模は普通の日本人の想像をはるかに超えているらしい。爆買いの道頓堀の様子が「住人という規模」で起っているようだ)。
 だとすると、グローバル化の名の下に各国家の主権を奪い、庶民の生活を顧みないEUにイギリス市民がNOを突き付けたのも故ないものとも思われない。

 となるとTPPに代表されるグローバル経済至上(絶対善)主義と国民経済主義の問題になる。
 戦後を代表するエコノミストの一人であった下村治氏は「国民経済とはこの日本列島で生活している1億2千万人がどうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するかである。それぞれの国がそう努力する。そこでいろんな摩擦が起きるのは当然。それをなんとか調整しながらやっていくのが国際経済なのである」と述べて、「アヘン戦争も自由貿易が発端である」とまで言ってグローバル経済至上主義に反対していた。
 私はこの方が現実的な論だと思っている。
  エゴだモンロー主義だとの批判は解った上でも。

 だがしかし、彼の地ではそのような論争がほんとうにあったのだろうか。明らかに大きな争点は感情的な移民・難民の制限・排斥になかったか。
 「移民が仕事を奪い、イギリスの社会保障を食いものにしている」的なアジテーションである。
 理性的な提案よりも品の悪い感情的なレッテル貼りの方が力強く少なくない人々を熱狂させるということを、大阪都構想以後私は感じているが、これは怖ろしいことである。
 あえて言うが、ヒットラーは「ドイツ国民の貧しさの原因はユダヤ人だ」と単純化した。
 心身障碍者を見せしめにして「彼らが税金(福祉)を無駄遣いしている」とキャンペーンを張った。
 それらは残念ながら功を奏した。
 「お前の隣の既得権益者がお前の幸せを分捕っているのだ」である。
 という流れの中で見て、ヨーロッパ各国のいわゆる極右政党が同じ論調で反EUの主張を行なっている事実と重ね合わせると、先に言った「イギリス市民」の選択を私は単純に頷けない。
 実際、移民、難民は何処へ行くのが正解なのか。

 最後に、イギリスの選択によって極東のこの国で歴史的規模の円高・株安が起っている。
 これは、世界経済というか日本経済が実体経済をはるかに超えた投機経済、マネーゲームで成り立っている危うさを明瞭にした。
 個人消費、家計支出に下支えされたしっかりした経済構造がほんとうに大切で、ほんとうの選挙の争点もそこにあろう。投機経済の際たるものがアベノミクスである。
 (年金財源が何兆円という単位で消えていっている)

 補足をすれば、ヨーロッパの困難を生み出した難民問題の出発点はアメリカやイギリスの始めたイラク戦争である。
 日本の首相と与党は「戦争のできる普通の国」に邁進しているが、その先が破滅の道であることを現在のこの状況は私たちに教えている。
 だから、冷静に考えて、理性的に対処しようとする「比例は共産党」「選挙区は野党統一候補」という選択を私は行いたい。

5 件のコメント:

  1.  長谷やん、いま欧州・EUに起こっている問題は本当に難しいですね。南欧を中心とする経済危機、中東における内戦やIS対策、ウクライナ問題などロシア対策、主要各国に台頭する極右勢力、そしてEU各国に共通する最大の問題である移民・難民問題、それらが複雑に絡み合って分析の糸口さえつかめません。ただ私は以前から中東や北アフリカの内戦や貧困が、欧州の難民問題の原因であると思っており、この難民問題が欧州で発生している問題の基礎ではないかと考えています。そんな視点からイギリスのEU離脱問題を記事にしつつあります。またご意見をお寄せください。

    返信削除
  2.  ニュースを最初に聞いたときは「不寛容」のイデオロギーの台頭だと不愉快になりましたが、じっくり考えるとそんなに単純ではないと思い直しています。それで結局、明解な分析ができないまま記事を書きました。「長谷やんも迷っておるな」と気づいてくれた誰かがコメントを書いてくれるだろうという甘えた気持ちで書きました。和道さんの意見は非常に参考になります。和道さんのブログに注目しているところです。

    返信削除
  3. 民族対立を煽りユーゴ連邦の分断からイラク、リビア、シリア、への武力干渉から難民、また安い労働力目当ての対東欧政策から移民を作り出したEC、NATOの政策矛盾、ウオール街の世界戦略の格差拡大の矛盾が伝統を重んじる「天邪鬼」英国魂を目覚めさせたのではないでしょうか。

    返信削除
  4.  一度は大英帝国の三枚舌外交(フサイン・マクマホン協定、サイクス・ピコ協定、バルフォア宣言)から勉強し直して書こうかと思ったのですが、少し空論になりそうだったのでやめました。
     スノウさんのご意見は参考になります。
     少しテレビ等のグローバル経済絶対善的な論調が気になります。
     同時に、問題を単純化して熱狂を煽るような離脱派の行く末にも危険な匂いがしています。
     まだ、そういう程度で悩んでいます。

    返信削除
  5.  離脱派は、投票結果がでた後「数字が嘘だった」「政策は保証できない」と言い出し、急先鋒の二人・・ボリス・ジョンソン前ロンドン市長は「首相選挙に出ない」といい、独立党ファラージュ党首は党首を辞任する。
     理性より感情で動いた国民投票の危うさが明らかになった。
     大切なことは、同じようなアジテーションを繰り返す「お維」「自公」を批判して許さないこと。

    返信削除