2019年8月29日木曜日

悪気はなくとも誤解は広がる

 『鬼の日本史』という本を読んでいると、次のような記述が出てきた。
 ■粽(ちまき)は中国の戦国時代に、楚の人で汨羅(べきら)の淵に身を投じた憂国の詩人・屈原(前343-前277ごろ)の霊を慰めるため作られたのがはじまりとされる・・・本家筋である中国では、楝(おうち・樗とも書く)の葉でくるんだのが、そのはじまりとされる。「オウチ」とはセンダンの古名である・・・「センダンは双葉よりかんばし」などといわれる・・・■

   著者に悪気はないだろうが、植物に関しては縁が遠そうだ。おいおいおい、楝の葉では粽は巻けないぞ。

 その前に、その故事というのを補足しておくと、人々は屈原の死を悲しみ、命日の55日には供物を投げて供養したが、供物は屈原のもとに届く前に悪い龍に盗まれてしまう。そこで供物のもち米を、龍が苦手だという楝樹(れんじゅ)の葉で包み、邪気を払う五色(赤・青・黄・白・黒)の糸で縛ってから川へ投げたところ、無事に屈原のもとへ届くようになったということである。蛇足ながら、粽に結んだ赤・青・黄・白・黒の五色の糸は、子供が無事に育つようにとの魔よけの意味を込め、鯉のぼりの吹流しの色となっているという説もある。

 私が「誤解だ」というのは、写真のとおり、楝(おうち・センダン)の葉では小さすぎて粽は巻けない。龍が忌避するほどの香りもない。
 正解は「楝樹(れんじゅ)とは白檀」であり、「栴檀は双葉より芳し」の栴檀も白檀のことである。
 著者は「栴檀は双葉より芳し」の栴檀を、センダン(楝)と誤解し、その上に実際のセンダン(楝)の葉を知らなかったわけである。

 と、偉そうなことを言ってみたが、私も昔は『夏は来ぬ』の歌詞の「楝ちる」が意味どころか読み方も解らなかった。さらにその上に「センダンなら栴檀は双葉より芳しのセンダンだろうと信じていた。
 著者を笑うわけにはいかないが、こう堂々と書かれると、悪気はなくとも誤解は広がる。
 悪気のあるフェイクニュースもあるが、こんな誤解も世間にはいっぱいあるように思う。
 情報なるものを鵜呑みにせず、自分の頭で納得できるまで反芻する、そんな作法が大切かもしれない。

2 件のコメント:

  1. フエイクニュースも流され続けると、いつの間にかファクトに勘違いさせられてしまう怖さを感じます。

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  2.  フェイクニュースで言えば、「正しい意見は必ず勝つ」という楽観的な精神でいるとともに、正しい意見がどうしたらさらに広がるかという「メッセージの伝え方」について、民主的な人々が大いに語り努力することが大切だと思っています。

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