2020年11月4日水曜日

胡について

   胡麻(ごま)・胡椒(こしょう)・胡桃(くるみ)・胡瓜(きゅうり)・胡餅・胡瓶(こへい:水差し)・胡粉(ごふん:白色顔料)・胡座(あぐら)・胡弓(こきゅう)・胡床(折り畳み椅子など)・・・

 通説というか世間一般ではこの「胡」のことをペルシャ(イラン)と言われている。アバウトに言っても西域の中でも西方で、例えば胡姫となるとベリーダンスを踊ったアラブ人という記述もある。

 ところが先日読んだ本の著者森安孝夫氏は、8世紀後半に中国で流布されていた(現在日本にだけ存在していて中国にはない)梵語雑名という梵語漢語辞典には、「ペルシャ=波斯」や天竺、突厥、吐蕃などと並んで胡があり、それは蘇哩(ソリ)つまりソグドだと明確に波斯とは区別している。

 より西方の品物がソグド商人によって中国にもたらされた故ではないかという考えもないではないだろうが、文献を丁寧に読み解いた著者は中国では相当正確に西域の諸民族を知っていたということらしいから、胡の付く物事はソグド人の国、ソグディアナ(サマルカンドを中心とする地方。現在のウズベキスタンのサマルカンド州とブハラ州、タジキスタンのソグド州に相当)の産物等であったらしい。

 ちなみに、写真は正倉院御物の酔胡王の伎楽面で、頭にすっぽり被る仮面であるが、ソグド人の容貌そっくりだとも指摘されており、なおかつその帽子はソグド商人のキャラヴァン隊長の「薩宝」という帽子そのものだということである。

 以上のような知識は現代日本社会を生きていくうえではどうでも良いことかもしれないが、中国のウイグル人弾圧などを深く理解する上では非常に参考になる。ユーラシア中部の民族の歴史を見ると、西欧や日本、日本の基となった中国(歴代中華帝国)の歴史感が如何に歪んだものかということに気づかされて驚かされる。

 ウイグルについては今後少し書くつもりでいる。

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