2020年11月10日火曜日

ただの番頭ではなかった

 今にして思えばあの時は理解が浅かったと私はいま後悔の念に似た気分でいる。

   NHKの看板番組『クローズアップ現代』のキャスターを23年間にわたって務めた国谷裕子氏が突然降板させられるのが判った20161のことである。

降板の最大の理由は、201473日放送の菅義偉官房長官への集団的自衛権にかんするインタビューで、国谷氏が集団的自衛権の行使にかかわる問題点を次々に質し、放送終了後に菅官房長官が立腹し、官邸サイドはNHK上層部に猛抗議をしたことだと週刊誌などが報じた。

 その後、国谷氏は著作で、「自分が理解していたニュースや報道番組での公平公正のあり方に対して今までとは異なる風が吹いてきていることを感じた」と振り返っている。

さらに、「その風を受けてNHK内の空気にも変化が起きてきたように思う。例えば社会的にも大きな議論を呼んだ特定秘密保護法案については番組で取り上げることが出来なかった。また、戦後の安全保障政策の大転換と言われ、2015年の国会で最大の争点となり、国民の間でも大きな議論を呼んだ安全保障関連法案については、参議院を通過した後にわずか一度取り上げるにとどまった」とも。これは厳然たる事実である。

 同時進行で同様の委縮は他局でも起こり、政権発表の言葉のすり替えも批判なく使用され、報道はいつしか骨抜きにされ機能不全に陥った。

 私の後悔は、この出来事の主要な側面を、安倍晋三氏によるNHK番組改編・政治介入問題の延長と見、さらにはNHK人事や法制局長官をはじめとする安倍政権の人事介入の結果と見たことだった。

 今言いたいことは、それは安倍晋三氏以上に菅義偉氏の意思であったと見抜けなかったことである。

 菅首相は、人事権に介入することによって公務員等を従わせる効果を過去にも得々と語っているが、例えば、立教大経済学部特任教授を務める平嶋彰英氏は、総務省自治税務局長だった2014年、ふるさと納税で後に問題化する返礼品競争を懸念して菅官房長官に意見具申したが、菅氏の不興を買ってその後、昇進ルートを閉ざされ本省の要職から外れた後に退職した。

 遡れば横浜市議時代には市職員の人事に介入し、リストを出させ、市議の横車に従わなかった職員の昇進を見送らせたといわれている。

 大切なことは、該当の人々が不当に扱われただけでなく、ここが一番のポイントなのだが、そういう介入によって、ドミノ式に萎縮が拡大し、行政なりメディアなりが歪んでいったことである。ここにこそ民主主義に対する根本問題がある。

 もう学術会議会員任命拒否問題を解説する必要はないだろう。菅氏にとってはあの6人であろうが5人であろうが4人であろうが関係はなく、学者と雖もあらゆるシーンで選別するぞという冷徹な恐怖政治の現実を見せつければよかったわけである。

 トランプ氏の無謀を批判しながらメディアが触れたがらない、この菅義偉氏のファッショ性を絶対に過小評価してはならない。ある意味安倍晋三氏よりも危険な人物である。

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