「纏向発見と邪馬台国の全貌」(KADOKAWA)は、古代史シンポジウム発見・検証日本の古代編集委員会(白石太一郎、鈴木靖民、寺澤薫、森公章、上野誠)による350頁の大著だった。
新聞に新刊の広告が出る前に書店で見つけたが、私の癖で、面白い本ほど一気に読むのが惜しくて、間に他の本の読書を度々挿んでゆっくりと読んできた。
大きな目次だけを拾ってみると、
1 倭国のありさまと王権の成り立ち
2 王権はいかにして誕生したか
3 卑弥呼の「共立」と魏王朝・公孫氏政権
4 邪馬台国時代前後の交易と文字使用
5 銅鏡からみた邪馬台国時代の倭と中国
6 卑弥呼の鬼道 天皇祭祀との比較
7 製作技法からみた三角縁神獣鏡
8 邪馬台国とヤマト王権をどう考えるか
・・・・というもので、この見出しだけでも面白さが判ってもらえると思う。
戦後すぐに開かれた古代史の座談会「日本民族=文化の源流と日本国家の形成」(昭和23年1948年刊行)は江上波夫氏の騎馬民族征服王朝説で注目を集めたが、それから約70年、考古学も文献史学も驚異的な発展を遂げこの本に至っている。
というように話してもよいほどに古代史の到達点を示している本だと思う。
同時に、その到達点から見て、江上波夫騎馬民族征服王朝説が提起した問題の鋭さが再確認もされた。
奈良公園に「奈良公園シルクロード交流館」というのがあった。
今は閉館され、新公会堂の別館ということになっている。
ここに「江上コレクション展示室」というのがあった。小さな展示室であまり評判は良くなかったが、私は好きで何回も見に行った。
あのコレクションは今はどうなっているのだろうか。
奈良県のホームページを見ても判らない。
今の県政は、歴史を大事にしているように見せて、実際には観光に結びつくことばかりに目がいっているように思われる。
さて、映画監督の篠田正浩氏が「卑弥呼について自由に論じられるようになったのは戦後であるので、ならば卑弥呼はポツダム宣言が発見した」と述べている。けだし名言である。
進行役の上野誠氏指摘のとおり、古代国家をめぐる学説には厳しい言論弾圧の歴史のあったことを思い起こすことの重要性が再び注目されよう。
内閣の圧倒的多数が、言論弾圧した側の皇国史観に基づく歴史修正主義を唱えている現在、「日本の古代を世界史(少なくとも東アジアの歴史)のうねりの中でとらえる」ことの重要性を指摘された上野誠氏の言葉の意味も大きい。
私は、文献史料を考古学で検証するスタイルは、歴史修正主義を許さないパワーになり得ると確信する。
それを軽視すると神武天皇が大股で歩き始める。
「纏向発見と邪馬台国の全貌(KADOKAWA)」は面白い。
自民党の憲法改正案や日本会議の改憲運動のバックボーンが皇国史観です。それが本当に動き出しています。そのときに、民主的な人々が論争に加わることをしないで「それはおかしい」と言っているだけではすまないような気がします。
返信削除歴史を見れば相当ひどい天皇も多々存在し、現人神の国という荒唐無稽さも明らかです。
皇国史観は選民思想であり他民族蔑視の差別思想です。戦争を正当化する思想です。