2016年9月3日土曜日

とっくりばちと楽しい日々

   庭のフェンスに見慣れない蜂がいた。1センチちょっとの小さな蜂。少し心が踊ったのでスマホで撮影した。
 「少し心が踊った」のはファーブル先生が執拗に観察したあの狩人蜂(ジガバチの一種?)ではないかと思ったから・・。
 図鑑などをめくってみると黄星徳利蜂(キボシトックリバチ)のようだ。
 キアシトックリバチ、ミカドトックリバチにも似ているがキボシが一番近いように思う。

 ツチスガリを含め、この名麻酔科医師である狩人蜂についてファーブル先生は多くの紙数を割いている。
 名麻酔科医師とは、これらの蜂は子供(卵)のために獲物である芋虫などを殺さずかつ卵を壊さないようにと昏睡状態にしてとっくりの中に保管するのだ。

 そのびっくりするような記録を読みたくて、手持ちのファーブル昆虫記(上下2巻)を開いてみたら、このトックリバチが載っていない。
 完訳版(10巻版)なら載っているだろうと奈良市立図書館に行ってみると全巻は揃っていない。
 国立国会図書館の蔵書検索をしても全巻は出てこない。意外だった。どういうことだ。

 先の上下2巻の河出書房新社版以外に岩波文庫の完訳ファーブル昆虫記第1巻も持っていたのでそれで調べてみると、その第2巻にトックリバチが載っていることは判った。
 で、書店に行くとそこにも置いていなかった。ファーブル昆虫記って、題名が有名な割には実際にはそういう扱いなのだ。まあ、よくある話だ。
 で、取り寄せを依頼してようやく第2巻を入手した。

河出版の挿絵
   「装束はスズメバチのように黒と黄色のだんだん染め、体つきは痩せぎす、歩きつきは優美、止ると翅は横に拡げずに縦に二つに畳まれる。胴はというと、これは蒸留瓶のように膨れて化学者の硝子道具みたい。長い上端は初め西洋梨形に狭まり、それから糸のように細くなって胸にくっついている。飛び立ち方はさして暴々しくなく、飛行中は翅音は立てない。暮しは独り暮し。これがトックリバチのあらましの風貌の素描だ」というのがファーブル先生(山田吉彦・林達夫訳)の書き出し。

 その後、如何に他のドロバチたちと違って徳利型の住居を芸術的に作るかを紹介し、ダーウィンの進化論では信じられないような高度な狩猟とその昏睡状態での保管、安全第一の卵の産み方を熱く語っている。

 この写真を撮ってから約10日間はワクワクして昆虫関係の各種書籍を読んだ。そして徳利がないかどうかと庭中を探しまわった。(結果的にはよう見つけなかったが)
 その仕上げがファーブル昆虫記第2巻の購入だった。
 楽しい10日間だった。

   後日、私は世界最大の危険な蜂オオスズメバチにまとわりつかれた。よく見ると狩りが終わって調理中の彼の縄張りに私が入っていた。
 なので、少し離れて観察すると、獲物はウマオイか何かだが、すでに頭が齧られているのでよく分からない。
 オオスズメバチはトックリバチのように名左官職人でもないし名麻酔科医師でもない。
 ただ獲物を切り刻んで、運べる程度の団子にして巣へ往復をしていた。
 獲物がウマオイだとしたら小さなバッタ等を食べる肉食男子。それを刻んで団子にするのだから、やはりオオスズメバチはヒエラルヒーのトップに君臨する暴君のようだ。

1 件のコメント:

  1.  ファーブル先生の足下どころかその影にさえ及びませんが、オオスズメバチの調理風景を観察していると何か感動さえ覚えます。

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