2015年4月24日金曜日

歴史資料と言説

  小宮木代良著「歴史資料と言説」という論文は、東京大学史料編纂所編「日本史の森をゆく」(中公新書)という本の中の42話中の1話である。
 拾いながら引用すると著者は次のように指摘している。
 ところで、過去の出来事(事件)について、その「事実」に関しての共通認識といえるものが、その社会内で存続しうる条件は、事件後70年目あたりを境目に大きく変化するのでないか、
 ・・・・当事者が一人もいなくなった瞬間から、様々な言説が大手を振って歩き出す可能性は、大いに考えられる。・・として、
 近世前期における焼物産業の発展という現象に関連して、豊臣秀吉の朝鮮侵略のために出兵した諸大名が、領内の焼物業を発展させる目的で朝鮮半島から連行してきた陶工が、各地の「陶祖」になったという説・・を引き、
 しかし、同時期に連れてこられた数万人ともいわれる人々の中で、陶工であることを主たる理由として大名に連行されたことを、一次史料において確認できる例はない。
 ・・・・秀吉の出兵以前にも、朝鮮南部から九州北部に向けての陶工の渡来や技術移転の痕跡があったことが指摘されている。そうであったとすると、侵略は、平和時に進みつつあった技術交流を、むしろ中断させる意味を持っていたともいえる。・・と説き、
 いろんな史料を示しながら「陶祖」「李参平」言説(有田・伊万里焼、白磁の陶祖)への収斂が起きた・・・・ことを述べたうえで、
 ・・・・日露戦争期、アカデミズムの一部が、領主との結びつきを強調して戦争の有用性を主張する根拠に用い・・・・たことを批判している。

  著者は、言説再構成の動機も形成される過程自体も貴重な歴史である。それを理解した上で、なおかつ、一次史料に戻って再検討し、今は、もはや生の声を聞くことのできない先人たちの、言説発生以前の声を探り、想定しうる様々な可能性を示すことが、歴史研究者としての大切な役割であると考えている。・・と結んでいる。

 今年は戦後70年にあたる。
 安倍自公内閣は新たな談話を用意し、戦争立法を本格的に起案した。
 新たな言説が軍靴の音も勇ましく独り歩きしないよう、一次史料の森の中を行きたい。

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