香港のリンゴ日報が6月24日付朝刊をもって発行停止に追い込まれた。
パリに本部を置く『国境なき記者団』が毎年発表している『世界報道自由度ランキング』では、香港のそれは2002年には世界で18位であったものが、今年4月には第80位になり、もう中国の第177位に並ぼうとしている。
ただ、それを「中国は酷い」と評論しているだけでよいのだろうかとも思う。念のため日本のランキングは2010年鳩山由紀夫内閣の折には第11位であったものが、特に安倍内閣から急降下し、今年のそれでは世界第67位にランク付けされている。67位というのは、1良好な状態、2満足できる状態、3顕著な問題、4困難な問題、5深刻な問題の3顕著な問題というグループに当てられている。人の死を軽々に扱うべきでないことは重々理解しながらも、直近のニュースで不可解なことがある。
6月7日JOC(日本オリンピック委員会)の経理部長が電車にはねられて死亡した。朝日新聞のベタ記事によると「警視庁は自殺の可能性が高いとみている」。今まさにクライマックスを迎えようとしているオリンピックの直前にJOC経理部長が自殺?。
さらに話題になったのがKBC九州朝日放送「アサデス」の“ニュース差し替え報道”で、7日朝の同番組放送時、「東京オリンピック直前一体何があったのでしょうか。JOCの幹部が…」とアナウンサーがコメント中、なんと急遽ニュースが差し替えに。「失礼しました。続いてのニュース、改めましてお伝えします…」と外国でゾウが車に突進するニュースに変更されたのだ。その後も、JOC経理部長自殺に関するニュースが報道されることはなかったという。それ以降、私の知る限り大手新聞・テレビでは全く続報が報じられていない。不可解なことである。
以下、LITERAの記事を要約して真相に近づいてみたい。
■ 詳しい経緯はわかっていないが、経理部長ということは、東京五輪に絡んだ金の流れを把握していると考えられる。そして、ここで思い起こさずにはいられないのは、JOCの竹田恒和・前会長による「招致買収」疑惑だろう。
周知のように、東京五輪をめぐっては招致委員会が国際オリンピック委員会(IOC)の委員だったラミン・ディアク氏の息子であるパパマッサタ・ディアク氏が関係するシンガポールの会社「ブラック・タイディングズ社」(BT社)の口座に招致決定前後の2013年7月と10月の2回に分けて合計約2億3000万円を振り込んでいたことが判明している。そして2019年1月にはフランス当局が招致の最高責任者だった竹田JOC会長を招致に絡む汚職にかかわった疑いがあるとして捜査を開始したことが明らかに。さらに2020年9月にはBT社の口座からパパマッサタ氏名義の口座や同氏の会社の口座に2013年8月~14年1月までに約3700万円が送金されていたことが、国際調査報道ジャーナリスト連合などの取材によって判明した。
パパマッサタ氏の父であるラミン・ディアク氏は五輪開催地の決定においてアフリカ票の取りまとめに影響力を持つ有力委員だった。そんなラミン氏の息子・パパマッサタ氏が深くかかわると見られるBT社の口座に対し、東京への招致が決定した2013年9月7日のIOC総会の前後におこなわれていた招致委からの約2億3000万円もの送金と、招致委からの送金の直後におこなわれていたBT社からパパマッサタ氏への送金──。しかも、国際調査報道ジャーナリスト連合やフランス当局の捜査資料からは、パパマッサタ氏が〈BT社を自身の財布同様に使っていた様子が明らか〉(毎日新聞2020年9月21日付)だという。
しかも、この招致買収疑惑については、さらに深い闇がある。というのも、このディアク親子への賄賂に、なんと菅義偉首相がかかわっていたという疑惑まであるからだ。この問題を伝えたのは、「週刊新潮」(新潮社)2020年2月20日号。記事によると、五輪の東京開催が決まった2013年秋ごろ、セガサミーホールディングスの里見治会長が東京・新橋の高級料亭で開いた会合で、テレビ局や広告代理店の幹部を前に「東京オリンピックは俺のおかげで獲れたんだ」と豪語し、こんな話をはじめたというのだ。「菅義偉官房長官から話があって、『アフリカ人を買収しなくてはいけない。4億~5億円の工作資金が必要だ。何とか用意してくれないか。これだけのお金が用意できるのは会長しかいない』と頼まれた」。
このとき、里見会長は「そんな大きな額の裏金を作って渡せるようなご時世じゃないよ」と返したが、菅官房長官は「嘉納治五郎財団というのがある。そこに振り込んでくれれば会長にご迷惑はかからない。この財団はブラックボックスになっているから足はつきません。国税も絶対に大丈夫です」と発言。この「嘉納治五郎財団」とは、森喜朗・組織委前会長が代表理事・会長を務める組織だ。この菅官房長官からの言葉を受け、里見会長は「俺が3億~4億、知り合いの社長が1億円用意して財団に入れた」とし、「菅長官は、『これでアフリカ票を持ってこられます』と喜んでいたよ」と言うのだ。
なんとも衝撃的な証言だが、しかもこれは“酒席でのホラ話”ではなかった。というのも、「週刊新潮」の取材に対し、セガサミー広報部は「当社よりスポーツの発展、振興を目的に一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センターへの寄付実績がございます」と嘉納治五郎財団への寄付の事実を認め、さらに「週刊新潮」2020年3月5日号では嘉納治五郎財団の決算報告書を独自入手し、2012年から13年にかけて2億円も寄付金収入が増えていることを確認。関係者は「その2億円は里見会長が寄付したものでしょう」と語っている。もし、里見会長に買収のための資金提供を依頼していたのが事実ならば、菅首相は官房長官という国の中枢の要職に就きながら五輪の招致を金で買うというとんでもない悪事に手を染めていたという、まさしく世界を揺るがす一大スキャンダルである。
しかも、この嘉納治五郎財団をめぐっては、さらなる疑惑がある。2020年3月、ロイター通信は組織委の理事である高橋治之・電通顧問が招致委から約8億9000万円相当の資金を受け取り、IOC委員らにロビー活動をおこなっていたと報じたが、その際、嘉納治五郎財団(つまりは代表理事の森喜朗氏)にも招致委から約1億4500万円が支払われていたと報道。つまり、この嘉納治五郎財団を介して買収工作がおこなわれた可能性があるのだ。ちなみに、菅首相は昨年12月15日、高橋理事と会食をおこなっている。
嘉納治五郎財団をめぐる疑惑については、昨年11月にトーマス・バッハIOC会長の来日時におこなわれた記者会見で、ロイターの記者が直接、当時の森会長に「これは何のために使ったのか」とぶつけたのだが、森会長は「私は実際の経理や金の出し入れというのは直接担当しておらず、おっしゃったようなことがどこまでが正しいのか承知していない」などと返答していた。だが、この直後の昨年12月末、嘉納治五郎財団は活動を終了。ロイターの報道では、東京都の担当者も「(同財団の)活動が終了することについては説明を受けていないし、知らなかった」と答えているように密かに活動終了していたわけだが、これはロイター記者に直接追及され、疑惑の深堀りを恐れ慌てて畳んだのではないかと見られていた。■ リテラ2021年6月7日 ■
これまでも、政界をめぐるさまざまな疑獄が起きるたびに、秘書や金庫番と呼ばれる人物が自殺を遂げ、「とかげのしっぽ切り」と訝しむ声があがってきた。私は、赤木ファイルの報道に接して現場職員の無念に心を痛めながら、JOC経理部長の懊悩を想像する。
アスリートファースト、スポーツマンシップ、オリンピック精神などという美辞麗句の裏のオリンピックの闇は深い。コロナ禍があってもなかっても、オリンピックのあり方はもっと冷静に議論されてよい。少なくともコロナ禍の東京2021は中止すべきである。日本の報道は健全だろうか。