2017年7月20日木曜日

読み応えあり

   人はジュニア用の新書に感動している老人を笑うことだろうが、日本古代史・文化財史料学専攻の 東野治之 著 岩波ジュニア新書『聖徳太子』を読んで、私は非常に楽しかった。
 その理由は、古代史関係の著作の中には資料や史料の少ないのをいいことに、けっこう思い付きのような論文が多々?あって日頃から玉石混交の感じを抱いていたが、この本は数学を解くように根拠を提示して著者の考えを披瀝し、ある種推理小説のような面白さがあった。

 カバーの裏表紙には、・・誰もが知っているのに、謎だらけの存在、聖徳太子、偉人か、ただの皇子か、「聖徳太子」か「厩戸王」か…、彼をめぐる議論は絶えません、いったいなぜそんな議論になるのでしょう、問題の根っこを知るには、歴史資料に触れてみるのが一番、仏像、繍帳(しゅうちょう)、お経、遺跡などをめぐり、ほんとうの太子を探す旅に出かけましょう・・とある。で、私は旅に出た。

 冠位十二階で『隋代にできた「五行大義」によったのだといわれている』という部分などは、太子の思想における道教の役割をもっと掘り下げてもらいたかったが、全編が非常にロジカルだった。
 
 圧巻は、「太子が亡くなった翌年(623)に完成した」と書かれている法隆寺金堂釈迦三尊像光背裏面の銘文の真偽で、著者は、いろんな角度から検討しながら、最後に、前面の金メッキが裏面に飛び散ったわずかな痕跡から、これは追刻されたものではなく、真正の同時代の史料だと判断した部分だった。
 法隆寺史編纂委員や、法隆寺宝物館のある東京国立博物館客員研究員であることの成果だろう。

 国会で答弁している方々には、たまにはこういう本を読んで、論理的に考え判断する生き方を学んでほしいものだ。

    遠雷や水撒きしようかしよまいか

2 件のコメント:

  1. 日本のお札の最高額紙幣の肖像画は昔「聖徳太子」で今の「福沢諭吉」に変わったのが1984年昭和59年でオリンピックが商業化されたロス大会の年でした。1986年からバブル経済が始まり、国鉄民営化が1987年でバブル崩壊が1991年平成3年と言われています。いわば「福沢諭吉」の紙幣は「金、金、金」の資本主義経済の象徴で、資本主義経済、政治の不安定と混乱期にある現在、財界人でもあった「福沢諭吉」の一万円札も、もう一度「聖徳太子」に戻して仏教の「少欲知足」の理念を再認識したらと思っています。

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  2.  スノウさん、名言です。この本の中で、若い頃家永三郎氏が「世間虚仮、唯仏是真」を指して「現実を超えて真理を探る否定の論理は太子に始まる」と論じたと紹介していることも新鮮でした。
     また「その徹底した大乗仏教の思想は渡来の僧侶たちの常識をも超えていた」とも著者は感想を述べています。著者の評価は非常に愉快です。

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