2016年7月25日月曜日

トランプとクリントン ひとつの視点

 共和党のトランプといえば、テレビ受けする感情的で品のない演説で、ある種の熱狂を演出しており、その姿はお維の橋下徹とぴったり重なる嫌な候補者だと思っていた。
 ところが、国際ジャーナリスト堤未果氏が少し違う角度から論評しているのが目についた。
 少し新鮮な解説で刺激を受けたので、要旨を紹介したい。
 引用元は PRESIDENT Online 。 

 過激で現実性の伴わない発言ばかりを繰り返すトランプ氏が、まさか本当に大統領候補に指名されることになろうとは、思っていなかった人が多いのではないだろうか。特に、日本のメディアを見ているだけでは、なぜトランプ氏にこれほど熱狂する人がいるのか、理解することは難しい。

 この「トランプ現象」を理解するには、まず、アメリカ政治の現状を知る必要がある。実は政治にまつわるカネの動きを探ると、アメリカという国家を、1%に満たない富裕層が動かしているという構図が見えてくる。アメリカでは、政治家への企業献金には事実上上限がなく、企業は政治家に献金をすることで、自社に都合の良い政策を、いくらでも「買う」ことができるのだ。政治は企業にとって、政治献金で投資した以上の大きな見返りが期待できる、ローリスク・ハイリターンの優良投資となっている。アメリカが「株式会社アメリカ」たるゆえんだ。

 (中略) 共和党の大統領選候補であるトランプ氏と、民主党の大統領選候補者に名乗りを挙げていたバーニー・サンダース上院議員は、見た目も支持層も主張もまったく異なるように見えるが、共通点が多い。

 (中略) 本来であれば「圏外」であるような候補が、これほどまでに人気を集めた大きな理由は、企業献金を受けていない、つまり、企業に金で買われていないところにある。「不動産王」とも呼ばれるトランプ氏は、選挙資金を自腹で工面しているし、サンダース氏は草の根の個人献金を集めて選挙戦を戦っている。両者とも、「株式会社アメリカ」に不満を抱える人たちからの共感と期待に支えられているのだ。

 (中略) 単純で感情的な言葉は、人の心をつかむ。現時点のトランプ氏の発言は、人々を熱狂させる効果があるが、メディア受けする感情的なあおりだけで具体性はないし、その内容に責任は伴っていない。日本のマスコミは、トランプの言葉を真に受けて振り回されているように見える。

 (中略) 今の多くのアメリカ人は、どれだけ頑張っても、マイホームを建てて家族を持つという、過去に当たり前だったものすら得ることができない。トランプを支持しているのは、こうした「良きアメリカ」を知りながら、今の生活に不満を抱える年配の人たちだ。

 アメリカでは、お金持ちはヒーローだ。日本人は、お金持ちがそれをひけらかすような行動をすると、「品がない」とさげすんだり、ねたんだりということがあるが、アメリカ人は素直に「やるなあ」と称賛する。トランプ氏は、努力してチャンスをつかんで成功し、財を成すという、昔の「アメリカンドリーム」の象徴でもあり、ノスタルジーをかきたてられる存在。しかも、トランプ氏は金持ちではあるが、今の政治を動かしている「強欲な1%」とは違い、アメリカンドリームの体現者であり、政治を「強欲な1%」から取り戻そうとしているヒーローなのだ。

 (中略) つまり、この「トランプ現象」とは、「1%の超富裕層が支配する株式会社アメリカ」への、強烈なアンチテーゼであり、残された最後の希望なのだ。株式会社化したアメリカの中で追いやられてきた人たちが、これまでの大統領選挙であれば「圏外」であったようなトランプ氏やサンダース氏に政治を託そうとしている。

 (中略) このまま順当にいけば、11月の大統領選挙では、巨額の企業献金を受けている民主党のクリントン氏と、「株式会社アメリカ」への不満を抱える人たちに支持されている共和党のトランプ氏が戦うことになるだろう。

 (中略) 「トランプ現象」は、まったくの対岸の火事とは言えない。アメリカの現状は、今の日本の状況と、驚くほど共通点が多いからだ。日本も、かつてのように、コツコツと真面目に頑張れば安定した収入を得て家族やマイホームが持てる時代ではなくなったし、格差も広がっている。大学を卒業しても、安定した仕事にも就くことができないばかりか、奨学金の返済に苦しむ若者も多い。こうした状況に不満を抱える人たちの声を集め、既存の政治の枠組みの「圏外」から政治参加をもくろむ、トランプ氏のような人物が、日本で生まれてもおかしくない空気になってきている。(後略)堤氏の引用終わり。


 日曜日に、ピーター・シュヴァイツァー著、あえば直道監修『クリントン・キャッシュ』という本の書評が新聞に載っていた。評者はジャーナリストの里崎英満氏。
 その要旨はこうだ。
  
 慈善事業のためというクリントン財団があり、その活動ということでビル・クリントン、ヒラリー・クリントンは超高額の講演料を得ている。
 1回1千万円以上は当たり前で約8千万円というのもある。
 合法的には政治献金ができない外国企業もそれを利用している。
 ヒラリーが国務長官であった2011年、ビルは44回の講演で14億円ほど得たが、その40%にあたる5億4千万円は国外での11回の講演によるものだった。
 スウェーデンの電信大手エリクソン社の製品は当時「制裁品目」に指定されようとしていたが、ビルに8千万円近い金額で講演を依頼。結果的に制裁リストから同社製品は外れた。 


 この書評と先の論評を重ねたとき私は、アメリカ国民はトランプを選択するかもしれないし、クリントンの選択が理性的で真っ当な道だとも単純には言えない気持ちにさせられた。
 クリントンの講演料は、お維の「政治献金ではないパーティー券????」と一緒である。
 ただ、サンダースをクリントンが無視できない状況が一縷の希望だろうか。
 それとも1%と闘うトランプの先に希望があるのだろうか。

1 件のコメント:

  1.  堤未果氏の論評は刺激的な内容だが、あの熱狂を煽る劇場型の手法には危険な匂いがする。
     少なくとも日本の政治状況と絡めてトランプ現象を評価するのは危険極まりない。

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