2014年1月26日日曜日

若草山にモノレールはいりません

 
  若草山の山焼きの日、朝日新聞夕刊が若草山のモノレール構想を一面トップで大きく報じた。
 『減り続ける観光客に足を向けてもらう狙いで、地元商店主らは歓迎。だが一帯は世界遺産の緩衝地帯に指定されており、ユネスコの諮問機関「イコモス」の国内組織が強い懸念を表明。』と。
 私はこの煮え切らない記事に、朝日新聞の文化というか教養の程度を疑った。
 第一に、こんな人工物で古都奈良の観光客がほんとうに増えるはずがない。
 第二に、もし増えるにしても、人間としてしてはならないことがある。踏み越えてはならない線がある。
 申し訳ないが、推進する人々が、私には、札束のために原発を誘致した人々や、札束のために基地を誘致しようとした人々と重なって見える。
 事実、この種の「開発」による奈良の危機はこれまでも何回もあり、かつて東大寺別当(管長)であった上司海雲氏はその折、「阿保によし奈良は田舎(青丹よし奈良の都)」と喝破されていた。
 
 今般、若草山の自動車道路開設問題に関して、志賀直哉氏が昭和13年に毎日新聞に寄稿した「置手紙」という文を私は知った。
 一部だけ現代仮名遣いで抜粋したい。
 奈良公園から公園という称呼をとって、奈良神苑・・というような、何かいい名を考え他の市にある普通の公園からはっきりとこの公園を区別してしまうがいいと思った。・・・
 奈良に公園の称呼がふさわしくないというだけなら大した問題ではないが、奈良県庁の中に公園課というものがあって、奈良公園にいわゆる公園らしい施設をしたがる点が、時に非常に困ることが起こるのである。・・・
 昔、徳川桂昌院という人が自分の信仰から法隆寺金堂や大仏殿の建築に手入れをして、以前になかったものを付け加えた。そしてそれは総て美術的に見て失敗であるにかかわらず、悪く言いつつ、未だそれらを撤廃する事が出来ない。そういうものらしい。新しく何かを作る時は悔いを残さぬようよほど考えて貰いたい。悪かったらとればいいという風には行かぬものだ。
 この間、奈良県の観光課で出している雑誌に私はつぎのようなことを書いた。「とにかく、奈良は美しいところだ。自然が美しく、残っている建築も美しい。そういう二つが互いにとけあっている点は他に比をみないといって差し支えない。今の奈良は昔の都の一部分に過ぎないが、名画の残欠が美しいように美しい」
 実際、奈良には名画の残欠のような美しさがある。そして名画の残欠には残欠としての取り扱いがあるように、奈良に対してもこの心使いは是非必要だと私は考える。無闇な修繕、あるいは加筆はつつしまねばならぬ。・・・
 
 私たちは、どれだけ賢くなったというのだろう。
 

4 件のコメント:

  1. まさに的確、同感。心ならずも奈良の愚息宅に居候、”奈良人”との接触を避けることに苦慮する日々を送っております。ところで、貴稿に上司海雲氏の弁とある「阿保によし奈良は田舎」は、志賀直哉氏が奈良を去るときに言い残した弁と、元春日大社職員の知人に聞きましたが、史実についてご教示賜れば幸甚です。 HIKO

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  2.  HIKOさん、コメントありがとうございます。
     恥ずかしながら、私も長い間「奈良府民」でして、体も頭も大阪に費やしながら奈良には寝に帰る日々でした。そして今では「山背」ですからほんとうのところ正確には知りません。
     ただ、先日、『志賀直哉邸保存の会』の木村宥子氏が「上司海雲師が・・・」と話されておりました。
     そして、奈良市にあった喫茶店『阿否茶座 アカダマ』のマスターの方のブログakadamaに、「上司海雲師の『阿保によし奈良は田舎』という随筆を読み直した」とありました。
     それで、ブログの記事に取り入れさせていただいた次第です。

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  3. 長谷やん様
    ご多忙のなかを、早速のご教示有難うございます。どうやら、知人の勘違いのようです。別の知人で、『阿保によし・・』にこだわる方がいますので、早速知らせます。必ずや喜ぶことと存じます。
     取り急ぎ御礼申し上げます。

     さて、若草山モノレールのことですが、最初に奈良県の素案を見て、建設予定地が「特別天然記念物 春日山原始林」の指定地内ではないかと疑問を抱きました。現地に行きますと、常識的には伐採予定を示すピンクのリボンを巻いた樹木が26本ほど見当たりました。
     胸高直径90cmを筆頭に70cm台3本、60cm台4本、50cm台7本、40cm台3本、30cm台7本、20cm台1本で、半数を超える15本が50cm以上の大木でした。
     ご承知の通り、春日山原始林は841年(承和8年)から伐採を禁じられてきました。その禁を犯して伐採するなどあり得ないことですから、奈良県に正確な原始林指定図を求めました。
     ところが、奈良公園室、文化財保存課、奈良公園管理事務所から得た地図では、驚いたことに境界がすべて異なるのです。事業主体の奈良公園室自身が「いま探しています。見つかったら知らせます」と言う体たらくですが、まだ知らせがありません。法を根拠に業を為す奈良県行政が法的根拠を持たないなど、あり得ないことです。県民は馬鹿にされているのでしょう。

     ところが、奈良公園室は直ちに予定路線の位置を北へ移動しました。最初の案が指定地内であったことを認めたのと同じことです。ピンクのリボンは「伐採予定木ではなく、変化を調べたかったのだ」と下手なウソをつきました。役人はウソをつくのが仕事ですが、質が低いのか県民を馬鹿にしているのか、ウソが下手です。
     幸運にもイコモスが乗り出してくれました。あとは、知事が2月県議会で断念を語れば終わりです。危機遺産に指定されて世界に恥をさらすことを免れてよかったと、ひとり、はやまった安堵にひたっております。  HIKO

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  4.  きわめてリアルな状況報告ありがとうございます。参考になります。

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