2014年1月5日日曜日

お節(せち)は直会(なおらい)

  年末の朝ドラのごちそうさんで、「お節は来る年へ願いを込めた料理」というキーワードが何度も繰り返されたが、その語り方では少々物足りないぞ!と私は思った。
 村祭りや神社の祭りが地域や氏族の祭りとすれば、お正月は各家庭単位で歳神・としがみ(歳徳神・としとくじん)さまを迎える祭りではないだろうか。
 とすると、お節の中心的なテーマは歳神さまとの神人共食であり、お下がり(直会)だと私は思う。(ということは私の発見ではなく多くの文献にも普通に載っている。)
 そういう神饌という土台の上に、いろんな縁起のよい理屈をつけてお膳を飾るのだと思う。
 だから、各家庭で一番のハレの祭りであるから、歳神さまへのお供え(神饌)という認識がもっと必要ではないかとつらつら考えた。
 ならば、お餅とお酒は当然として、この国の千数百年以前からの先人はどのような料理を超一級のごちそうと考え神にお供えしてきたのかと思案したところ、穀物や野菜その他の素材を除けば、それはおすしだ!と思い至った。(平城京の木簡にも書かれている。延喜式にも書かれている。)

  そう、古来から神饌の華はおすし、とくれば熟れずし、とくれば鮒ずしとここまで連想するのに時間はかからなかった。
 そうだ、お節料理に鮒ずしを加えよう。それこそが正しいお正月の行事食のトッピングである。
 そうして、我が家はこのお正月を迎えた。

 ちょっと脱線するが、椎名誠の「食えば食える図鑑」という本の中に「鮒ずしへの詫び状」という章がある。
 そこに、『ぼくが小説など書き出して間もない頃だった。京都に仕事に行ったら帰りにお土産を頂いた。ずしりと重いものであった。家に帰って風呂敷を開いて出てきたものが大量の鮒ずしであった。思えばわが人生における初めての鮒ずしとのご対面であった。しかし『延喜式』や『賦役令』のカケラも知らない関東のあんちゃんはその前でただもう呆然としてつぶやくだけであった。「これをいったいどうすりゃいいんだ。」・・・初めて嗅ぐ強烈な臭いのなかでしばしばあとずさるしか手だてはなく、結局それは捨てるしかなかった。』・・・・・と、あの椎名誠をして言わしめた鮒ずしを注文してから、私は子供のようにお正月が待ちどおしくなった。

 で、鮒ずしをお節のお膳に並べたが皆に大好評(娘だけは「嫌いやないけど」という程度)で、揃って延喜式の世界にタイムスリップした。やっぱりこの味は我が民族の味である。
 だが、この素晴らしい味と香りは文字では伝えられない。

 昨年も度々語ってきたが、今この国は猛烈な思想の一元化、中央集権化、同調圧力が進み、大勢と異なる意見への偏見と威圧が強まっている。
 そういう広義の『世間の常識』という枠の中(隅)で、鮒ずしは不当な評価を受けている。
 ゆえに、『体制の常識』に疑義を感じ自分自身の感覚で真理をつかみたい方々は、是非とも一切の既成概念を捨てて鮒ずしを味わっていただきたい。と、なぜか私の声は大きくなり、
 鮒ずしを忌避してファーストフードを食べていては対米従属を脱却できないのではないかと、正しいナショナリストになるのである。(えっ、どこかに論理の飛躍がありますか?)
 これも度々主張してきたが、鮒ずしは5回は食べてもらいたい。これは3回目ぐらいから徐々にその美味しさが判り始めるという遅効性の料理であり、5回を過ぎると虜になる。依存症に似ている。

 こうして我がお正月は神妙に『歳神さまと共食した』と言いたいところだが、孫が走り回り、義母が酔っ払って泣き上戸になり、ただただテレビに見るような馬鹿騒ぎのお正月の大宴会となってしまった。
 まあ、それでもいいか。 

3 件のコメント:

  1.  鮒は川に泳いでいるフナですか?そのお寿司をお節で食べるんですか?地域が変われば、食文化も違う事に驚嘆させられました。私は鯉やナマズやスズメは食べますが、フナは無理です。

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  2.  バラやんにお答えします。
     本来は琵琶湖固有種の二ゴロ鮒ですが、近頃は大幅に漁獲量(棲息数)が減っているので、二流品には源五郎鮒もあります。
     子持ちのニゴロ鮒を飯に包んで漬け込んで発酵(嫌気性の乳酸発酵)させた馴れ鮨です。2年以上漬け込むものもあります。
     食べるときには大雑把に飯をとって鮒の身と真子を食べますが、頭も尻尾も食べます。
     この馴れずしが、生馴れずし、早馴れずしと進化というか、手抜きをして変化してきたのが、酢を使った今日の鮨です。
     延喜式には鮒以外にも多くの馴れずしが書かれていますが、現代でも「料理」として洗練されながら古式の風を留めている代表が鮒ずしです。
     味はあえて言えばチーズかもしれませんが、他に似たもののない味(味というより香り)です。
     玄人好みのものから万人向けのものまでいろいろ市販されていますが、ネットで『坂本屋』に注文すれば、スライス済の食べやすいものが4000円以下で入手できます。代引きOKです。
     対米従属をよしとせず、この国の食文化を大事にしたいとお考えなら、「無理」と言わずに食べてみてください。本文にありますとおり、その時に「不味い」と思っても3~5回は食べてみてください。バラやんなら大好物のリストに登録されるに違いありません。
     
     

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  3.  ご説明有難うございます。一度挑戦してみます。

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