森安孝夫著『シルクロードと唐帝国』(講談社学術文庫)は、不自由な目には少々辛い、予想に反して分厚い学術論文であった。それだけに、著者の言葉を借りれば「理科系的歴史学」として論理的で目から何枚も鱗が取れた感じがする。
これも予想外だったが、序章が40頁もあり、序章のタイトルが「本当の自虐史観とは何か」というのも読み始めから驚いた。その小見出しをいくつか摘んでみると、●現代日本人の欧米コンプレックス、●進んだアジア、遅れたヨーロッパ、●人種・民族・国民に根拠はあるか、●唐代と現代のウイグル、●漢民族の実体、●日本人の歴史意識を問い直す、等々で、「私の目から見れば、20世紀前半における日本帝国主義の負の側面、例えば日韓併合・満州事変や南京大虐殺や従軍慰安婦問題などを率直に記述するのは自虐史観でもなんでもない」と述べていて、この序章だけを熟読するだけでも勉強になる。
この大論文をブログ程度の紙数で語ることはできないが、「漢民族の中華」などという虚構を剥ぎ取れば、中華の実体は圧倒的にはユーラシアの遊牧騎馬民族の支配する多民族国家であったしそれらの攻防の歴史であった。
些か学問的ではない情緒的な感想を言えば、中原(中華)の国家がチベットやウイグルを恐れる感情にも想像が及ぶ。そして、大相撲がモンゴル勢に席巻されているのも郁子(むべ)なるかなと思ったりする。
内田樹氏は『日本辺境論』を著したが、ユーラシアの世界史を眺めると、日本列島は本当に世界の辺境、世界史の例外のような気がする。西欧知識人の代表のような第2次世界大戦中の駐日フランス大使で詩人のポール・クローデルは「私が絶対に滅亡するのを望まない民族がある。それは日本人だ。これほど興味ある古代からの文明を持っている民族を私は知らない」と言ったそうである。
昨日は中村哲氏の本を紹介したが、昨今の「自虐史観攻撃」をする政治家などの知識やそも精神の薄っぺらさをつくづくと感じさせる読書の秋である。
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