2021年9月10日金曜日

基礎疾患あり

   大阪で10代の方が亡くなったと朝日新聞が報じているが、その袖見出しは「基礎疾患あり」というものだった。

 これは「だから、基礎疾患のある方は注意してください」というご忠告だろうか。
 それよりも思うに「亡くなったのは基礎疾患のせいかも」という印象を受けた読者が多いのではないだろうか。

 この個別事案そのものについては私は全く存じ上げないので、評価というか判断めいたことは言う気がない。
 ただ一般論になるが、「基礎疾患あり」という付記が、どちらかというと新型コロナ肺炎の危険性を誤解させ、死亡や重症患者に「自己責任」という濡れ衣を着させないかと心配する。

 私はかつて過労死の労災認定の仕事をしていたことがあるので、少し意見を述べさせていただきたい。例えば、医師等医療従事者がコロナ肺炎患者と接触する中で自身も感染し、その医師等医療従事者に基礎疾患があった場合の労災認定とイメージしていただくと分かりやすい。
 業務(医療行為)によって感染したものであるから労災か、それとも基礎疾患の増悪若しくは競合によるもので私病(一般的には健保と厚生年金等)かということだ。

 そもそも人間(この場合は医師等医療従事者)が全く健康で一切の基礎疾患と無縁であるのは稀有なことであるが、それでも普通に働いているのが(それこそ)普通である。もし基礎疾患があったことが労災認定の決定的な判断基準であれば、いわゆる過労死事案などはほとんどが門前払いになるだろう。

 こういう場合労災認定では、「発症又は増悪の経緯若しくは病態が、当該基礎疾患又は既存疾病の自然経過や他の原因によるものとは明らかに異なり、基礎疾患又は既存疾病の自然経過を超えて発症し又は著明に増悪したと医学的に認め得る場合には、相当因果関係が認められるものとして、業務上疾病として取り扱われる」とされている。
 こうして、肥満、高血圧、高脂血症などの基礎疾患があっても、多くの場合は労災認定されることがあるのである。

 さて、現下の社会問題としては、特に大阪では行政の怠慢による医療崩壊が続いている。「自宅療養」などという言葉は戦時中の「転戦」同様の言葉で、本質は入院拒絶された患者である。
 よって、「基礎疾患あり」というような見出しやコメントが、そういう大阪の行政責任を薄め、ともすれば感染者を自己責任論に閉じ込めはしないかと心配している。

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