2017年4月20日木曜日

砂けぶり二

 4月19日の朝日新聞に次のような見出しの記事があった。
 「朝鮮人虐殺」に批判、削除 関東大震災の記述 内閣府、HPから
 内容は、内閣府HPにあった「災害教訓の継承に関する専門調査会」の報告書が、「内容的に批判の声が多」かったので「削除した」というもの。
 実際に内閣府HPにアクセスするも削除されていた。
 ただネット上には「20年3月 1923関東大震災【第2編】「報告書の概要」が残っており、その第4章 「混乱による被害の拡大」には、・・・関東大震災時には横浜などで略奪事件が生じたほか、朝鮮人が武装蜂起し、あるいは放火するといった流言を背景に、住民の自警団や軍隊、警察の一部による殺傷事件が生じた。流言は地震前の新聞報道をはじめとする住民の予備知識や断片的に得られる情報を背景に、流言現象に一般的に見られる「意味づけの暴走」として生じた。3日までは軍隊や警察も流言に巻き込まれ、また増幅した。・・・とあった。
 報告書本文の小見出しも載っていて・・・
 第4章 混乱による被害の拡大
  第1節 流言蜚語と都市
  第2節 殺傷事件の発生
   コラム6 「天災日記」に見る流言蜚語と戒厳令
   コラム7 「河井清方日記」に見る余震と流言
   コラム8 殺傷事件の検証
・・・とあった。
 このことから想像すると、「朝鮮人を殺せ」などというヘイトスピーチを繰り返している右翼や、「新しい歴史教科書」の普及を謀っている日本会議あたりの右翼が、「流言蜚語で日本人が朝鮮人を殺害した」という事実を歴史から抹消したいがために内閣府に組織的に抗議行動を行い、結果、功を奏して内閣府が削除したのではないかと私は想像する。
 青木理著「日本会議の正体」などを読むと、そういう行動は彼等の基本の戦術であり常套手段だと思われる。

 以前に書いたが、『吾輩は猫である』のなかで漱石は、「凡ての大事件の前には必ず小事件が起こるものだ。大事件のみを述べて、小事件を逸するのは古来から歴史家の常に陥る幣竇(へいとう:欠陥)である」と語っている。
 東京大学史料編纂所編「日本史の森をゆく」の中で小宮木代良氏は、「過去の出来事(事件)について、その「事実」に関しての共通認識といえるものが、その社会内で存続しうる条件は、事件後70年目あたりを境目に大きく変化するのではないか」と指摘している。
 だとすると、今私たちの目の前で起こっている内閣府HP「報告書削除」事件は大事件の前の大事な小事件であり、歴史偽造作業の真っ只中の事件なのではないだろうか。
 私たちは長い間「戦後を暮らしてきた」と信じていたが、正しくは戦前を暮らしているのではないかという反省というか自問が重要な気がする。

 最後に一言、・・・敗戦時、その存続が危ぶまれた大学が二つあった。神道を教学の柱としていた伊勢の神宮皇学館大学と国学院大学である。
 その危急存亡の秋に国学院大学の宗教研究室の主任教授になったのが折口信夫(おりくち しのぶ)で、学者であるとともに歌人でもあり詩人でもあった。
 はたして、日本会議周辺の神社本庁や神道政治連盟の人々はこの先達のことをお知りだろうかと私は疑問に思った。
 そして、関東大震災の翌年大正13年に折口が発表した詩「砂けぶり二」をご存知なのだろうかと。
 少しく長いので一部のみ紹介すると、折口は、
  夜(ヨル)になったー。
 また 蝋燭と流言の夜(ヨル)だ  ・・と、詠い。
 かはゆい子どもがー
  大道で しばって居たっけ
  あの音ー
     帰順民のむくろのー。  ・・と、詠い。
  (初出では)
  おん身らは、誰を殺したと思ふ
  陛下のみ名においてー。
  おそろしい咒文だ。
  陛下万歳 ばあんざあい  ・・と告発していたことを。

 私は今、新潮選書 上野誠著「魂の古代学 ――問い続ける折口信夫」を読み返しながら、安倍内閣周辺の「戦後レジームからの脱却」「戦前復古」のスローガンの薄っぺらさを再確認した。
 歴史修正主義=歴史の偽造を看過してはならない。

 関連して折口はこうも言っていた。
 ・・・大正12年の地震の時、9月4日の夕方こゝを通って、私は下谷・根津の方へむかった。自警団と称する団体の人々が、刀を抜きそばめて私をとり囲んだ。その表情を忘れない。戦争の時にも思ひ出した。戦争の後にも思ひ出した。平らかな生を楽しむ国びとだと思ってゐたが、一旦事があると、あんなにすさみ切ってしまふ。あの時代に値(ア)つて以来といふものは、此国の、わが心ひく優れた顔の女子達を見ても、心をゆるして思ふやうな事が出来なくなってしまった。・・・

 共謀罪は、折口が落胆した時代を復古させるものだろう。それらと歩調を併せて削除された報告書を近く国会図書館で読もうと思う。

   苗コーナートマトとキュウリと万願寺

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