2020年11月5日木曜日

上代文学会の抗議声明に賛同します

   菅政権による学術会議会員任命拒否問題については10月初めにいくつか書いた。特に10月5日には戦前の津田左右吉事件のことも書いた。 

 本件の本質が権力による弾圧(威嚇)で、民主主義の上からも絶対に見過ごすことができないことは言うまでもないし、そのデタラメさは菅首相のこれもデタラメ答弁でますます明らかになっている。

   そんな中、多くの学者、文化人、関係団体から抗議の声が聞こえてくるのは頼もしい。その中に、私の住まいする奈良文化圏に関係の深い『上代文学会』の抗議声明を見つけたのでご紹介しておきたい。

   通常日本史では「古代」という言葉が用いられるが、文学史では平安時代(延暦13年:794~)より前を「上代(じょうだい)」と呼び、上代文学とは、主に大和に都があった時代の神話・伝説・歌謡・和歌・漢詩文・伝記・歴史・地誌などをいう。
 写真は、①津田左右吉の論文も掲載されている文集 ②その目次 ③上代文学会理事でもある上野誠先生のサイン。

抗議声明は以下のとおりだが、最終章の「日本語破壊が目に余る」との文言は、言葉、文章、表現を扱う学者たちの心の底からの悲鳴であろう。

 抗 議 声 明

  上代文学会常任理事会は、日本学術会議の推薦した会員の一部について任命を拒否した政府の措置に対し、強く抗議します。今般の措置は、権力からの独立を法的に保障された学術会議の地位を公然と侵害するものであり、とうてい容認できません。学術会議の協力学術研究団体でもある上代文学会を運営してきた立場として、即時撤回を求めます。

  私たちは、かつて津田左右吉の『古事記』『日本書紀』研究が国家権力によって弾圧された経緯を熟知しています。「神武紀元二千六百年」の虚構性を暴露するものだったことが当時の国策に抵触したのでした。戦後の上代文学研究者は、日本史研究者とともに、津田の受難を二度と繰り返さないことが研究発展のために必須であると考え、そのために相互努力を惜しまないことを不文律としてきました。今般の措置は、私たちの研究者としての信条を踏みにじるものであり、自由闊達であるべき学問討究を萎縮へ導く暴挙であって、この点からもとうてい容認できません。

 今般の任命拒否は英米の著名な科学雑誌にも取り上げられ、政治が学問の自由を脅かしていると報じられました。日本だけでなく世界中の科学者が、政府の措置を非常識きわまる強権発動と見ているのです。 

 言語表現を取り扱うわが学会としては、任命拒否の理由を菅総理がまともに説明しようとせず、無効で無内容な言い逃れを重ねていることをも看過できません。総理の態度は事実上の回答拒否であり、コミュニケーションの一方的遮断です。あたかも何事かを答えたかのように見せかけている分だけ、ただの黙殺より悪質だとも言わなくてはなりません。

 前政権以来、この国の指導者たちの日本語破壊が目に余ります。日本語には豊かなコミュニケーションを担う力が十分備わっているのに、見せかけの形式に空疎な内容を盛り込んだ言説が今後も横行するなら、日本語そのものの力が低下してしまいます。日本語の無力化・形骸化を深く憂慮します。頼むから日本語をこれ以上痛めつけないでいただきたい。 

                       令和二年十月十二日

                      上代文学会常任理事会

1 件のコメント:

  1.  毎週土曜日5時30分~5時45分MBSラジオで『上野誠の万葉歌(うた)ごよみ』が聴けます。
     今朝は巻の8の1516番の歌でした。「もみぢ」から「さらには秋を見まくほりせん」は恋の哲学でもある・・などいつもながら深い講義でした。この番組もお勧めです。

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