2015年8月9日日曜日

戦争のリアル

 共産党の志位委員長がインターネット放送局のインタビュー番組で語った内容を新聞で読んだが、その中で次のように語っている部分に私は少し驚いた。
 志位 「朝鮮有事」ということが、あたかもリアリティーがあるかのように語られているのですがはたしてそうか。一番わかりやすい事例というのは、1994年に、本当の朝鮮半島危機があったわけですよ。これは、米国のクリントン政権が、北朝鮮の核施設を先制攻撃で空爆するというシナリオだったのです。このときに止めたのは、韓国の金泳三大統領なんですね。彼が、クリントンに電話をして、‟もしそんなことをやれば地上戦になっておびただしい犠牲者がでる、だから絶対にやめてくれ、もし米国が北朝鮮を攻撃しても韓国軍は一兵たりとも動かさない”と談判して止めたのですね。そのとき、関係国みんなが地獄を見たと思うのですよ。米国も、軍事攻撃すれば、大変な状況になる。韓国も、ソウルの40キロ先は境界線で、大砲の弾が届く距離ですから、これも地獄になる。北朝鮮も破滅することになる。それぞれが地獄を見たと思うんですね。こういう経験を経ているのです。だから私は、「朝鮮有事」がさもすぐおこるかのようにあおられているけれど、そんなものではないと思います。
 私がこの発言の何に驚いたかというと、そういう事実が私の記憶には全くなかったという、そのことだった。(瞬時には知ったニュースだったとしても「そういう重大なことだった」という記憶が今はない)
 1994年(平成6年)というと、私事では、相当な部下を抱えてけっこう仕事に没頭していたということもあるし、社会では細川内閣、羽田内閣、村山内閣と目まぐるしく、私の目や耳も松本サリン事件の謎に興味が集中していたのかもしれない。
 さらに、年が明けると阪神淡路大震災の渦中に投げ出され、ニュースは地下鉄サリン事件で埋まり、さらに些末な私事になるが畑違いの業務に転勤して格闘していたからかもしれない。
 ということはやはり言い訳で、結局のところは、当時の自分の勉強不足以外の何ものでもないことだろう。
 (だから、非常に狭い自分の経験から考えて余談を言えば、不安定雇用・過密労働は悪政を支える最高のシステムだと思うし、そういう観点からの過重労働防止の運動は重要だと感じている)

 ということで、ネット上の「コリア・レポート」編集長の辺真一氏のレポートを今頃読み返すとこういうことだったらしい。
 米国は・・1994年に一度だけ、北朝鮮への攻撃を真剣に検討したことがあった。・・大統領は1994年5月19日、シュリガシュビリ統合参謀本部議長らから戦争シミュレーションのブリーフィングを受けた。シミュレーションの結果は「戦争が勃発すれば、開戦90日間で▲5万2千人の米軍が被害を受ける▲韓国軍は49万人の死者を出す▲戦争費用は610億ドルを超える。最終的には1千億ドルを越す」という衝撃的なものだった。
 当時、極東に配備されていた在日米軍3万3千4百人と在韓米軍2万8千5百人を合せると、約6万2千人。なんとその約8割が緒戦3か月で被害を受けることになる。駐韓米軍のラック司令官にいたっては「南北間の隣接性と大都市戦争の特殊性からして米国人8万~10万人を含め(民間人から)100万人の死者が出る」と報告していた。
 クリントン大統領はそれでも将来米国を核攻撃するかもしれない北朝鮮を今のうちに叩くのが得策と判断し、一か月後の6月16日、ホワイトハウスでの安全保障会議で空爆を指示した。ところが、ほぼ同時に訪朝中のカーター元大統領から「金日成(主席)が核開発の凍結を受け入れた」との一報が入り、幸いにも攻撃は中止された・・と、
 窮鼠猫を噛むの諺ではないが、ミサイルは一瞬にして北朝鮮と同時に、韓国、日本、そして米本土を焦土にするだろう。
 一時は、クリントンは、100万人の死者を見込んだうえで戦争を決定したのである。怖ろしい事態だった。という記憶のない自分もまた怖ろしい。
 だから山本太郎議員の主張のとおり、北朝鮮を仮想敵国にしながら日本海側にずらりと原発を並べて矛盾を感じない安倍首相の考えは全くリアルでなく、支離滅裂で狂気の沙汰でしかない。
 とすると、不良少年に因縁をつけられた友達を救うというようなレベルの例え話で防衛を語るのでなく、外交の力で平和を守るというのが最もリアルな選択であることは明らかだと私は思う。
 戦争を知らない子供たち世代である私などが言うのも憚られるが、安倍側近や日本会議に群がる子供たちの、戦争ゲームレベルの主張の愚かさは度し難い。
 戦争法案よりも憲法、軍事よりも外交という考えを『平和ボケ』の理想論だと笑う意見があるが、そういう人こそ事実が見えていない『平和ボケ』の『戦争オタク』である。
 3.11後は、23万人自衛隊員の半数以上が東北の被災地に投入されていた。安倍流にいえば火事場ドロボーがやって来る最も軍事力が脆弱な時代だった。しかし北朝鮮は侵略して来ず、義援金を送ってきた。これこそリアルな国際関係ではないのか。
 憲法順守こそ最もリアルな『抑止力』と考えることが知性ではないか。
 北朝鮮の政治を擁護する気などさらさらないが、安倍周辺の言動は彼らと瓜二つである。そんなメンバーがロシアンルーレットで粋がっている政治は非常に危険だと考える。

2 件のコメント:

  1. 長谷やん、しばらく当たり障りのない記事更新が続いていましたが、さすがですね。戦争という誰もが関心を持ち、それでいて素人の想像力でイメージしがたいテーマに見事に切り込んだものと、感心しながら読ませてもらいました。しかもその緊張感あふれるリアルな局面であったのに、自分の記憶に残っていなかったという恐怖を語ることで、戦争の持つ本当の恐怖をリアルに表現しているところが見事です。
     私にもその記憶はありませんので、まったく長谷やんの説に共感できます。このブログは、間違いなく長谷やんの出色の記事です。しばらく筆を休めていた大作家のベストセラーとなる長編小説を読ませてもらった気分です。

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  2.  安倍総理は戦争法案の説明で「朝鮮有事で邦人を乗せた米艦が攻撃されたら自衛隊が何もしないで良いのか」的な扇動をしているが、先の大戦の末期に満州の邦人を放ったらかしにして軍隊(の大部分)だけが逃げ帰ったことは有名だし、そもそも1994年の米国政府の態度は「邦人救出」どころか、アメリカのためなら韓国・日本の民間人100万人の死亡も辞さないというものだったのですね。ここにこそ「戦争のリアル」があるのであって、首相のフリップは詐欺商法の誇大広告以外の何ものでもありません。

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