2014年9月12日金曜日

朝日と産経

  朝日が「吉田証言」の誤報を認めたことで、産経が要旨「それ見たことか、元従軍慰安婦の証言は全て嘘だったんだ、慰安婦は強制された者でなく自発的にやってきた娼婦だったんだ」と言っているが、私の知る限り産経の主張はおかしいと思う。

 比較的コンパクトにまとめられている吉見義明著『従軍慰安婦』(岩波新書384)で著者は、「ヒヤリングは、50年も前の出来事の回想なので、記憶違いがないとはいえない。実際、韓国人やフィリッピン人の元慰安婦の多くは、十分な学校教育を受ける機会がなかったこともあってか、証言内容が矛盾したり、年代などがあいまいだったりする。」と、研究者らしく困惑を正直に書いている。
 しかし、くりかえし聞くことによって当事者でなくては語り得ない事実関係が浮かびあがってきたとして、「吉田証言」などは採用せずに、信頼性の高いと判断される証言と、証拠隠滅を免れた公文書等から、多くの場合、強制的に連行され、強制的に使役されたことを、ある意味淡々と記録している。
 それらの諸事実は、日本の裁判所の8件の判決においても事実認定されている。

 私は働いていた頃、暴力団やエセ同和団体が仕事内容に横車を押してくる局面に立ち会ったが、問題の本質ではないところで言葉尻や揚げ足を取って、「謝れ!どうしてくれる!」と主張するのが彼らの常套手段であった。
 「吉田証言」などという、研究者の間では取り上げられてもいない枝葉末節の誤報問題を根拠に、従軍慰安婦問題をすべて虚報であるかのように主張するのは、私の経験したこととよく似た論理展開のように思っている。

 なお、吉見氏の著書には、産経新聞の中興の祖ともいうべき元社長鹿内信隆氏が著作の中で、「そのとき〔慰安所の開設時〕に、調弁(ものを現地調達する軍隊用語らしい)する女の耐久度とか消耗度、それにどこの女がいいとか悪いとか、それからムシロをくぐってから出て来るまでの‟待ち時間”が、将校は何分、下士官は何分、兵は何分・・・といったことまで決めなければならない(笑)。料金にも等級をつける。こんなことを規定しているのが「ピー屋設置要綱」というんで、これも経理学校で教わった。」と言っているとの引用があった。
 私は私の目で確かめたくて国立国会図書館関西館に行き、『いま明かす戦後秘史』の同部分を写真のとおりコピーしてきた。
 「語るに落ちる」というのはこういうことを言うのではなかろうか。

  「語るに落ちる」といえば、産経等は河野談話の河野元官房長官を国会招致すべきだと言っているが、その前に、『終わりなき海軍』という本の中で中曽根元首相が、「やがて、原住民の女を襲うもの・・も出てきた。そんなかれらのために、私は苦心して、慰安所をつくってやったこともある」と書かれているらしいから、先ずは中曽根氏にその苦心のほどを国会で語ってもらったらよいだろう。
 この本、残念ながら国会図書館の東京本館にしかないので今のところ直接的には読んでいないが、何時でもコピーを依頼することができる。

 まるで土石流のような「嫌朝日」「慰安婦問題はなかった」キャンペーンの下で、世間(特に若い世代)には少し自信を無くする傾向があるようだが、私はこういう機会だからこそ、真実を学び、思うところを発信すべきだと思っている。現代史を語る絶好の機会でもあると思っている。

4 件のコメント:

  1. ありがとう。そのとおりなんです。よくぞつぶやいてくださいました。

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  2.  吉見先生はさすがに一級の学者らしく、各国軍隊の恥部も正確に指摘されている。しかし、日本帝国軍隊のそれは、質も量も桁の違うものであったことも事実を示して指摘されている。
     石川逸子著『日本軍「慰安婦」にされた少女たち』(岩波ジュニア新書)もあります。
     言葉はおかしいが、従軍慰安婦問題を語る絶好の機会だと思います。
     皆で冷静に整理された事実を勉強して語り合いましょう。

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  3. 9月11日の東京新聞の社説は「起てよ全国の新聞紙 桐生悠々を偲んで」という表題で今の日本の新聞、メディアのあるべき姿を的確に言い当てていて胸に迫るものを感じました。一つは「言わねばならぬこと」して特定秘密保護法に多くの国民が反対、不安の声をあげ、メディアも反対の論陣を張ったが安倍はその声を聞かなかった。この反対の声を新聞は「言わねばならなかった」事だ。二つは「集団自衛権の行使」に全国39社の新聞紙が反対の社説を掲載し賛成の新聞紙は「わずか2社」でこの事を政府は無視してはならない。三つは「言論擁護」の先頭に新聞紙は立つべきで、政府が悪政に道を踏み外すなら私たち言論機関が立ち上がるのは義務の履行です。権力に媚びるようでは存在価値はありません。日本を再び「戦前」としないためにも悠々を偲びその気概を心に刻もう。という概略です。
    桐生悠々という人は大正時代中日新聞の前身の新愛知新聞等で編集、論説の主筆を務め米騒動の時も当時の寺内内閣を厳しく批判し内閣打倒、言論擁護の先頭に立った人です(私は知りませんでした)
    読売新聞の渡辺社主が特定秘密法の運用基準つくりの先頭に立っている現状や、産経や右翼週刊誌、右翼雑誌が朝日新聞つぶしに躍起になっている今、メディアの原点を示す社説だと思います。

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  4.  参考になります。
     東京新聞を地方紙といえば東京新聞は怒るかもしれませんが、今、気骨のあるのは地方紙ですね。そこにある良識をこのようにネットで広めるのも非常に意義のあることですね。目を覚まされました。

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