2014年5月6日火曜日

土に帰る

 最初に断わっておくが、心臓が止まってから散骨されて土に帰るという話ではない。
 しかし、当たらずと言えども遠からずかもしれない。

 高齢化社会で商売をするならターゲットが高齢者であるのは当然で、書店に行けば「定年までにしておくべきこと」だとか「安心できる老後にはこれだけのお金がいる」という類の本が並んでいる。
 テレビでも「初老期うつにならないために」とか「こんな趣味を持とう」と親切だし、余裕のある高齢者向けには海外旅行のお勧めが目白押しだ。そして同時に、「団塊の世代は確実に介護浪人になるだろう」と脅し、介護付き老人マンションの広告が新聞紙面を日々覆っている。 
 そういう下で、最高の真理である寿命の有限性から逆算した期間をどう過ごすかについて少なくない人々が悩んでいる。 
 仕事ができる間は仕事を続けるというのも悪くはないし、体が動く間は旅行やゴルフをし続けたいというのも悪くはない。
 (要介護までの話であるが。)

真っ赤なパプリカ
  ただ私は、体が付いていかないので偉そうなことは言えないが、歳をとってからの土いじりもなかなかいいものだと思っている。ここでいう「土いじり」というのはプランターでもいっこうに構わない。
 ということを「土に帰ろう」と言っている。
 ほんとうの農家の方には「バカにするな」と言われそうだが、私の対象面積は謙遜ではなくて猫の額みたいなものである。一坪農園、家庭菜園という規模にも及ばない。 
 そこの草刈りを中腰がしんどいので地面にお尻をつけているという体たらくであるから、ほんとうに偉そうなことは言えない。
 それでも言えば、植物を相手にすると少し頭で考えることのスパンが長くなる。
 秋に撒いたスナップエンドウはこれからがようやく収穫本番である。
 予想外だったのは、この鞘ごと食べるスナップエンドウを孫の夏ちゃんが大好きだったことで、あまり火を通しすぎないシャキシャキしたのをポリポリと食べてくれる。
 その傍らで夏野菜を始めているが、その多くの収穫時期は夏から秋になる。
 農作業は、ネットで調べたらすぐに答えが返ってくるようなコピペ的作業とは対極にある。
 連作障害や害虫被害にあえば、それもフイになり、対策の結果が出るのは1年先2年先になる。
 夏の日陰のためにと落葉樹を植えると、それが本格的に日陰を作ってくれるのは15年くらい先である。(5千円までの樹を自分で植えるから)
 成果主義のような殺伐とした宮仕えを卒業した身にはこれが良い。

 同時に、そういう行いを冷ややかに客観的に眺めると、寿命からの逆算で、私はあと何回夏野菜の収穫ができるのだろうということになる(せいぜい十数回もない)から、時間というものが貴重であると感じられる。

 一方、スパンが長いと言いながら、日々の作業には待ったなしのことも多い。日照りが続いた時に「あと1日はいいか」と放っておくと枯れてしまう。虫が付いたら1日のうちに全滅することもある。
 そういう風に、スパンは長いが結構日時に追われるというのも、怠け心から蘇生させてくれるようでよい。農は人の道の基本だと思う。

 以前にスーパーに行ったとき、孫が真っ赤なパプリカを籠に入れた。その晩は自分で買ったという意識があるのだろう、パプリカをパクパク食べた。
 そんなことがあったから、先日は毎年の万願寺唐辛子にプラスしてパプリカを1本植えつけた。
 これの収穫が可能になったとき、同じように食べてくれるだろうか。
 そんな心配をしながら向かう半年間世話をする。

5 件のコメント:

  1.  同感です。野菜を作っていると、何か暖かい気持ちになります。実際、畑に素手で手のひらを当てるとジワッとした温もりがあります。3月にミレー展があり「種まく人」の傍で、フランスでは一般的野菜と書いてあった「ルッコラ」の種を買いました。作りやすく、ホウレンソウのアクを少なくしたような味で食べやすいです。今は毎日「ルッコラ浸け」です。

    返信削除
  2.  ルッコラ大好き同士を得て感激です。去年からの株は大花盛りです。夏野菜の場所を確保するために9割方は抜きました。そして次のルッコラの株を4月に植えました。サラダはもちろん、肉料理にも魚料理にもちょっと付け合わせます。

    返信削除
  3.  土佐では、ルッコラは知らない人がほとんどです。近所の専業農家の方が「変わった野菜植えてるね?何チュウ名前の野菜でよ?」と聞かれます。嫁さんにも「変な野菜作たらあかんでー。」と言われる始末でした。しかし、この野菜はアクがなくて美味しいことが食べて分りました。嫁さんも同感でした。嫁さん曰く「来年も作りや。」ルッコラの先輩に敬意を表します。

    返信削除
  4.  (伊)ルッコラ、(英)ロケットは『惚れ薬』です。奥さんにたくさん食べさせたのは正解です。貴家庭円満万歳!
     「アクがない」と書いておられますが、「ほのかな苦味」がいいですね。

    返信削除
  5. バラやん「まっこと、うまいぜよ」でしたか。
    わが家も頂いた後、食べ残しを冷蔵庫に入れておいたのですがいつまでもシャキッとして生命力の強さを感じました。

    返信削除