2014年5月29日木曜日

里山資本主義

  去年からずーっと気になっていたが買わずにいた本である。
 最初は、よくある「町おこしの本」か、亜流の近代経済学程度かと思っていたが、著者がテレビで熱く語っていたり、紙上でアベノミクスを批判していたので「いつかは読もう」と思っていた。
 で、ようやく購入して読んでみた。
 要約など到底できないから、目次を写してみるとこうなる。

 はじめに―「里山資本主義」のススメ
 「経済100年の常識」を破る/発想の原点は「マネー資本主義」/「弱ってしまった国」がマネーの餌食になった/「マッチョな経済」からの解放/世の中の先端は、もはや田舎の方が走っている
 第1章 世界経済の最先端、中国山地 ―原価0円からの経済再生、地域復活
 21世紀の‟エネルギー革命”は山里から始まる/石油に代わる燃料がある/エネルギーを外から買うとグローバル化の影響は免れない/1960年代まで、エネルギーはみんな山から来ていた/山を中心に再びお金が回り、雇用と所得が生まれた/21世紀の新経済アイテム「エコストーブ」/「里山を食い物にする」/何もないとは、何でもやれる可能性があるということ/過疎を逆手にとる/「豊かな暮らし」をみせびらかす道具を手に入れた
 第2章 21世紀先進国はオーストリア ―ユーロ危機と無縁だった国の秘密
 知られざる超優良国家/林業が最先端の産業に生まれ変わっている/里山資本主義を最新技術が支える/合い言葉は「打倒!化石燃料」/独自技術は多くの雇用も生む/林業は「持続可能な豊かさ」を守る術/山に若者が殺到した/林業の哲学は「利子で生活する」ということ/里山資本主義は安全保障と地域経済の自立をもたらす/極貧から奇跡の復活を果たした町/エネルギー買い取り地域から自給地域へ転換する/雇用と税収を増加させ、経済を住民の手に取り戻す/ギュッシングモデルでつかむ「経済的安定」/「開かれた地域主義」こそ里山資本主義だ/鉄筋コンクリートから木造高層建築への移行が起きている/ロンドン、イタリアでも進む、木造高層建築/産業革命以来の革命が起きている/日本でもCLT産業が国を動かし始めた
 中間総括 「里山資本主義」の極意 ―マネーに依存しないサブシステム
 加工貿易立国モデルが、資源高によって逆ザヤ基調になってきている/マネーに依存しないサブシステムを再構築しよう/逆風が強かった中国山地/地域振興三種の神器でも経済はまったく発展しなかった/全国どこでも真似できる庄原モデル/日本でも進む木材利用の技術革新/オーストリアはエネルギーの地下資源から地上資源へのシフトを起こした/二刀流を認めない極論の誤り/「貨幣換算できない物々交換」の復権―マネー資本主義へのアンチテーゼ①/規模の利益への抵抗―マネー資本主義へのアンチテーゼ②/分業の原理への異議申し立て―マネー資本主義へのアンチテーゼ③/里山資本主義は気楽に都会でできる/あなたはお金では買えない
 第3章 グローバル経済からの奴隷解放 ―費用と人手をかけた田舎の商売の成功
 過疎の島こそ21世紀のフロンティアになっている/大手電力会社から「島のジャムやさんへ/自分も地域も利益をあげるジャム作り/売れる秘密は「原料を高く買う」「人手をかける」/島を目指す若者が増えている/「ニューノーマル」が時代を変える/52%、1.5年、39%の数字が語る事実/田舎には田舎の発展の仕方がある!/地域の赤字は「エネルギー」と「モノ」の購入代金/真庭モデルが高知で始まる/日本は「懐かしい未来」へ向かっている/「シェア」の意味が無意識に変化した社会に気づけ/「食料自給率39%」の国に広がる「耕作放棄地」/「毎日、牛乳の味が変わること」がブランドになっている/「耕作放棄地」は希望の条件がすべて揃った理想的な環境/耕作放棄地活用の肝は、楽しむことだ/「市場で売らなければいけない」という幻想/次々と収穫される市場‟外”の「副産物」
 第4章 ‟無縁社会”の克服 ―福祉先進国も学ぶ‟過疎の町”の知恵
 「税と社会保障の一体改革頼み」への反旗/「ハンデ」はマイナスではなく宝箱である/「腐らせている野菜」こそ宝物だった/「役立つ」「張り合い」が生き甲斐になる/地域で豊かさを回す仕組み、地域通貨を作る/地方でこそ作れる母子が暮らせる環境/お年寄りもお母さんも子どもも輝く装置/無縁社会の解決策、「お役立ち」のクロス/里山暮らしの達人/「手間返し」こそ里山の極意/21世紀の里山の知恵を福祉先進国が学んでいる
 第5章 「マッチョな20世紀」から「しなやかな21世紀」へ ―課題先進国を救う里山モデル
 報道ディレクターとして見た日本の20年/「都会の団地」と「里山」は相似形をしている/「里山資本主義への違和感」こそ「つくられた世論」/次世代産業の最先端と里山資本主義の志向は「驚くほど一致」している/里山資本主義が競争力をより強化する/日本企業の強みはもともと「しなやかさ」と「きめ細かさ」/スマートシティが目指す「コミュニティー復活」/「都会のスマートシティ」と「地方の里山資本主義」が「車の両輪」になる
 最終総括 「里山資本主義」で不安・不満・不信に訣別を ―日本の本当の危機・少子化への解決策
 繁栄するほど「日本経済衰退」への不安が心の奥底に溜まる/マッチョな解決に走れば副作用が出る/「日本経済衰退説」への冷静な疑念/そう簡単には日本の経済的繁栄は終わらない/ゼロ成長と衰退との混同―「日本経済ダメダメ論の誤り①/絶対数を見ていない「国際競争力低下」論者―「日本経済ダメダメ論の誤り②/「近経のマル経化」を象徴する「デフレ脱却」論―「日本経済ダメダメ論の誤り③/真の構造改革は「賃上げできるビジネスモデルを確立する」こと/不安・不満・不信を乗り越え未来を生む「里山資本主義」/天災は「マネー資本主義」を機能停止させる/インフレになれば政府はさらなる借金の雪だるま状態となる/「マネー資本主義」が生んだ「刹那的行動」蔓延の病理/里山資本主義は保険。安心を買う別原理である/刹那的な繁栄の希求と心の奥底の不安が生んだ著しい少子化/里山資本主義こそ、少子化を食い止める解決策/「社会が高齢化するから日本は衰える」は誤っている/里山資本主義は「健康寿命」を延ばし、明るい高齢化社会を生み出す/里山資本主義は「金銭換算できない価値」を生み、明るい高齢化社会を生み出す
 おわりに ―里山資本主義の爽やかな風が吹き抜ける、2060年の日本
 2060年の明るい未来/国債残高も目に見えて減らしていくことが可能になる/未来は、もう、里山の麓から始まっている
 あとがき
・・・・・・・・以上が目次なので、私が「要約できない」こともご理解いただけると思う。

 私は近頃、若者の右傾化と、そういう意識の土台だと思われる日本経済の閉塞感というものが気になって、革新的な学者等の経済政策をいくらか読んだり講義を聞いたりしてきた。
 しかし、いつもある種の物足りなさを感じていた。
 「恒産なくして恒心なし」、未来の想像できない失業と不安定雇用が、「すべてリセット」「何かやってくれそう」「きれいごとの前に就職したい」という意識を生んでいるのではないかと思うのだが、そういう核心部分で「そうや」という気分になれないでいた。
 アベノミクスが悪いことは解った。TPPの狙いも、国際金融資本や多国籍企業の横暴も解った。ルールなき大企業の自滅的な経営戦略も解った。派遣法改悪、残業させ放題の労働政策の不当性も、内部留保のほんの一部を賃上げに使うことで個人消費を広げることの正当性も、・・・・・・しかし、自動車や家電をはじめとする大工場が実際に閉鎖される下で現に存在している若者の就職難をどうするかということなど心にピタッと響く展望がなかなか感じられなかった。
 そんな中、この本は、ドンピシャっとはいかないけれど、久しぶりに気分の明るくなる経済の本だった。
 世の中の全システムを里山資本主義にすればよいと言っていないところが良い。サブシステムで良いと始めから言っているところが良い。
 私自身はこの提案から最も遠い位置にいるのかもしれないが、こんなことをライフワークに加えてもいいかとも思い始めている。
 全編に諸手を挙げているわけではないが、先ずはご一読をお勧めする。一読には十分に値する。

3 件のコメント:

  1.  今朝の朝日新聞奈良版に、桜井市において藻谷氏の講演と県内の団体の活動報告があったと、写真入りの記事が掲載されていた。
     遠くない地域でも里山資本主義は胎動を始めているようだ。

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  2. 半分都会暮らし、半分里山暮らしをしている者には興味のある情報です早速読んでみます。

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  3.  「これはスノウさんのことではないか」と思うような箇所が幾つかありました。

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