2017年11月8日水曜日

憲法は押しつけ憲法

洗濯物で日向ぼっこのアキアカネ♀
記事とは関係なし
   2016年2月28日「憲法9条 幣原喜重郎が提案」の記事で私は次のように記述した。
 (前段) 安倍首相らは日本国憲法が連合国軍占領下で成立したとして毛嫌いをしているが、もっともっと重要なことは戦後70年間、日本国民がこの憲法を認め積極的に守ろうとしてきたことだと私は思っている。
 だから、憲法の成立過程だけをとって「押しつけだ」「そうではない」と語ること自体に大きな意味はないと考えるのだが、

 (後段) 国立公文書館に保管されていた安倍氏の祖父である岸内閣当時の憲法調査会の録音テープによると、焦点である9条・・戦争放棄については当時の幣原総理が提案したと述べられていた。また同調査会へのマッカーサーの文書回答にも、幣原総理が提案してきて驚いたこと、結局マッカーサーがそれを受け入れたことが回答されている。(再録おわり)

 ところがどうもタイトルと後段の文章には再考が必要かもしれない。というのは、11月5日「日米合同委員会」で紹介した講談社現代新書矢部宏冶著『知ってはいけない』に、「憲法9条のルーツをたどる」というするどい指摘があったからである。その内容を紹介する。

 ⑴ 1941年8月14日、ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相は、間もなくアメリカが対日戦に参戦することを前提に「米英が理想とする戦後世界のかたち」を宣言した2か国協定を結んだ。それが大西洋憲章だ。

 ⑵ 翌1942年1月1日、米英は大西洋憲章に基づきソ連と中国(中華民国)を含む26か国の巨大軍事協定を成立させた。その参加国を表す言葉が「連合国」で英語ではUnited Nationsだ。協定の名前は連合国共同宣言

 ⑶ 連合国の勝利が確実になった1944年10月、米英ソ中の4か国は国連憲章の原案であるダンバートン・オークス提案を作成した。

 ⑷ ヨーロッパ戦線がほぼ終了した1945年4月から6月、⑶のダンバートン・オークス提案の条文を基にサンフランシスコで50か国が会議を行い国連憲章が作られた。
 こうして、軍事上の国家連合から平時の国際機関・国際連合が誕生した。
 このため、国連の英語表記は⑵の「連合国」と同じUnited Nationsだ。

 ⑸ 1946年2月、国連では第1回国連安保決議に基づく「国連軍創設のための五大国の会議が始まり、日本ではマッカーサーが憲法案執筆のための3原則を示した。

 ⑹ 以上のとおり、日本国憲法(特に9条)は連合国United Nationsが積み上げてきた議論と考えに沿って作られたものである。

 ⑺ 出発点であった⑴の大西洋憲章第8項はこうである。
 両国は、世界のすべての国民が、現実的または精神的な理由から、武力の使用を放棄するようにならなければならないことを信じる。
 もしも陸、海、空の軍事力が、自国の国外へ侵略的脅威を与えるか、または与える可能性のある国によって使われ続けるなら、未来の平和は維持されない。そのため両国は、いっそう広く永久的な一般的安全保障制度(のちの国連)が確立されるまでは、そのような国の武装解除は不可欠であると信じる。

 ⑻ 以上のような理念でその後の国連軍を含む国連が成長していれば、日本国憲法は未来社会のモデル、世界の国々のモデルになっていたはずだが、冷戦、朝鮮戦争後の戦後世界はそうならず、結局、国連憲章106条の、国連軍が出来上がるまでの間は、安保理常任理事国五大国は、必要な軍事行動を国連に代わって行っていいという暫定条項を悪用して、米軍が日本国を好き勝手に振る舞えるよう安保体制とそれを担保する数々の密約、そして日米合同委員会体制を築いて今日に至っている。

 詳細は是非ともこの本を購入して読んでもらいたいが、憲法前文や各所に⑴から⑷の文言がダイレクトに使われている。

 いわゆる改憲派が「押しつけ憲法」というものだから、いきおい護憲派は幣原喜重郎や鈴木安蔵をピックアップしがちだが、事実は冷徹に事実として見たうえで護憲の論を展開する必要がありそうだ。
 ただ、日本の知識人らが上述の諸文献を知っていて「この論はあなた方自身の主張であったはずだ」とマッカーサーを説得した可能性もあるかもしれないとの想像の余地があるが、可能性でいえばGHQのハッシー中佐らが連合国の当時の基本方針に沿って起草したと考える方が常識的かもしれない。

 憲法よりも上位に位置する安保体制と日米合同委員会の問題は問題として置くとして、差し迫った憲法9条改悪案に対して斬り結んだ論争をする上でいろいろ考えさせられる刺激的な本である。
 講談社現代新書矢部宏冶著『知ってはいけない』。とりあえず現代人必読の書だと思う。

1 件のコメント:

  1.  T2猫持2017年11月7日 20:04のコメントを再録(長谷やん)

     先日、この本をブックオフで見つけ、気にかけていたのですが、他の書棚をめぐっているうちに買いそびれ、後悔しているところです。
     ところで、講談社のPR誌「本」の11月号で、矢部宏冶氏と田原総一朗氏のが「これが『日本の現実』だ」と題して対談しています。ブログに紹介されていたような日米の密約をめぐって対談が進んでいくのですが、対談の最後に矢部氏が、「自衛隊(日本)に返還された米軍の富士演習場は、いまだに年間270日は米軍が優先的に使う密約が結ばれている。つまり事実上米軍基地のままということだが、これから米軍基地の返還が進み、表向きは自衛隊基地なのにその実態は米軍基地、という形がどんどん増えてくるかもしれない。今後厳しく注視していく必要がある」と危惧されていました。6ページほどの短い対談ですが、まさに、知れば知るほど怖ろしくなりました。
     もう一度ブックオフへ行って、売れてしまっていたら、ぜひ新刊でぜひ読んでみたいと思います。

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