2017年11月17日金曜日

バッタを倒しにアフリカへ

   光文社新書・前野 ウルド 浩太郎著『バッタを倒しにアフリカへ』。
 虫好きの私としてはずーっと以前から「読んでやろう」と思っていた本だ。
 ただ正直にいうと表紙の写真がいかにも「いかもの臭」く、「大ハズレ」の可能性もあるかもと半信半疑で、大きな期待はしていなかった。
 まあ、書名からして政治がらみの話ではなさそうだし、だから選挙や政局などとは関係なく少し書店に置いておいても賞味期限は過ぎないだろうと長い間パスしていたが、いよいよ購入した。

   予想外に(私が予想していた程には)サバクトビバッタの生態や対策の記事は少なかったが、ファーブルの聖地、南フランス・モンペリエでの感激ぶりなどは楽しかった。
 サバクトビバッタの翅には独特の模様があり、古代エジプト人はその模様はヘブライ語で「神の罰」と刻まれている言うのも新鮮な情報だった。
 さらに山羊の丸煮込みも読んでいて唾が出てきた。
 補足しておけば、圧倒的には、単身、言葉も判らぬままモーリタニアに乗り込んだ研究者の奮戦記でそれはそれで非常に面白かった。

 そして、それこそ私の予想外であったのは、全編を通してのポスドク問題つまり就職浪人や非正規雇用の博士(ドクター)の求職問題(高学歴ワーキングプア)という厳しい現実の悲しい吐露だった。
 そのテーマは決して興味の埒外ではないのだが、まさかこの本の中で熱く語られるとは思ってもみなかった。

 著者は本の最終部分で、京都大学白眉プロジェクト(任期5年、年100万~400万円の研究費)に採用され、その後つくばの国際農林水産業研究センター(JIRCAS・ジルカス)(任期5年、成果を出せば再任→常勤あり)にたどり着くのだが、我がことのようにホッとした。

 それはさておき寄り道だが、一般に朝ドラの立身出世物語は食傷気味だ。そういう意味では特段の出世もしなかった『ひよっこ』は画期的な名作だった。なのに「わろてんか」でまたまた大幅に後退した。BKのこの精神の衰退ぶりは哀しい。寄り道おわり。

 私は既に職業生活をリタイアした年寄りだが、若者のがむしゃらな冒険話には心が踊った。
 そして思ったのは、ポスドク問題ではないが、若者たちに夢を与える施策こそが政治ではないのかということだった。
 国の政治や未来を株式会社の効率の思想で語ってはならないとは内田樹氏の金言だ。
 自民党や維新の政治は亡国の政治でないか。
 株式会社どころではない。お友達の学校には数百億円の補助金、トランプに言われたからとオスプレイ3機342億円、ミサイル迎撃システム(イージス・アショア)2基1600億円、一方に著者のような無収入のポスドク、そして山中伸弥教授が「せめて研究員を常用雇用にしてあげたい」と嘆く国。
 楽しくて後でいろいろ考えさせられる本だった。
 飛蝗(バッタ)の如くも飛翔しなかった私だが、まあ晴耕雨読は楽しい。

    木枯らしに青松虫の屍かな

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