2011年8月31日水曜日

綴刺蟋蟀

 先日、確かにガクンと季節が4分の1回転する音が聞こえた気がする。
 実母の入っている完全空調の施設ではそれが判らないので、「外ではコオロギも鳴き始めました」と入所者にお知らせしたところ、傍で聞いていたスタッフの方々が「それはそうとコオロギって何て鳴くの?」と議論になり、諸説が飛交った。
 そう言えば、ラジオやテレビの中の(パーソナリティーとかコメンテーターとか)立派な大人が、これと全く同じようなことを言い、「ジッジッジやったかな」というように話を纏められているのを嫌と言うほど見聞きしているので、流石に私もこんなことぐらいでは驚かない。

 もちろん入所者の方は、ツヅレサセコオロギを『 肩刺せ 裾刺せ 寒さが来るぞ 』と聞きなすと文句なく一致した。
 『 綴れ刺せ刺せ 綴れ刺せ 』とか、いろんなバージョンがあるようだが、基本形は、秋の深まりと重ね合わせて、冬物の「綴くろい」をコオロギが急かせていると聞きなすようで、何時もながら先人の感性にはただただ感服する。
 
 他人を嗤っている場合ではない。子や孫に正しく伝承できていないのは挙げて親の責任である。
 しかし、私たちが子供の頃に当り前であった「綴くろい」の風景など、考えてみれば私たちの世代が「店じまい」してしまった感がある。
 だとすれば、子や孫に、見たこともない「綴くろい」を聞きなしなさいというのも酷であろう。
 だから、躾という範疇ではなく、「綴くろい」も歴史として伝承する方がさっぱりしていてよいようだ。
 古今の古文ならほんとうの勉強になってしまう。
 パッチワークも脱帽するような「綴くろい」だらけの靴下を履いて小学校に行っていた・・などと幾ら語っても、「また愚にも付かない昔話や・・」と鼻で笑われるのが関の山である。

 秋風に綻びぬらし藤袴 つづりさせてふきりぎりす鳴く (古今集)

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