2013年3月21日木曜日

大阪の中の蛙

  大阪市中央区で働いていたことが度々あった。(転勤が多い職場だったので「度々」になる。)
  そんなとき、東京の本社の「偉いさん」をお迎えするのは新大阪駅で、そのあと車で御堂筋を南下するのだが、47都道府県を回っているであろう少なくない「偉いさん」が銀杏並木の御堂筋を「美しい」「立派な道だ」と褒められるのは少し意外だった。
  地元の人間としては、ミナミの戎橋筋あたりの方が馴染みがあり、どちらかと言えば企業社会の顔であったり東京と同類の街並みだと思う御堂筋は『唄の世界』を除いては感心の少ない場所であった。私の感覚では・・・・。
 しかし、客観的にはなかなか他に見られない美しく立派な道路(左右のビルも含めて)なのだ。私は大阪の中の蛙だったらしい。

  御堂筋は大正15年に着工し昭和12年に完成した道路だが、船場の心斎橋筋で商売をしていた私の祖母などは、① お客さんが立ち退いた。 ② 同時に進んだ職住分離で旦那衆は芦屋あたりに引っ越して通勤をするようになった。 ③ 道路幅約45mの横断が困難なため西側のお客さんが遠のいた。・・・と、半ば恨めしく語っていたと、母を通じて聞いている。
  それは、家族史の一コマだったが、社会史的には八百八橋に代表される運河からモータリゼーション対応の道路へと舵を切った先進的な都市計画だった。
  そして今や文句なしの大阪のメーンストリートである。

  さて、大阪市の都市計画審議会専門部会は、御堂筋の原則50メートル、最高60メートルというビルの高さ制限を撤廃することを決めた。
  市長就任直後から「高層マンションを建てて人口を増やしたい。」と言っていた橋下市長が「議論を押し切った。」と朝日新聞は報じている。

  仕事柄、私も近畿2府4県の県庁所在地をよく知っているが、古都の京都、奈良はもちろん、大津も和歌山も県都にふさわしい雰囲気を持っている。
  木津川計氏はそういう文化も含めた都市の風貌を、人格になぞらえて「都市格」と言われているが、それぞれが「高さ制限」を含め、都市格を大事にしているように見える。

  そして、兵庫であるが、神戸市役所周辺の旧居留地を大阪市の皆さんはご存知だろうか。
 一言で言って「品が良い都会」だと私は思う。大阪人としては正直に言って「敗けた」という感じがするほどセンスが良い。
  関西人の夢は「神戸に住んで、大阪で稼いで、京都で遊ぶこと」だと言われたことがあるが、説得力を持っていた。
  かつて首相であった森喜朗氏は「大阪はたんつぼだ」と言い放ったが、御堂筋の景観すら大事にしないなら、大阪の都市格はますます低下するだろう。
  たかだか高さ制限解除の話であるが、大阪の知性が異議申請するのを期待したい。

6 件のコメント:

  1. しょっちゅう近鉄電車で奈良方面に出掛けます。電車が生駒山並みに沿って石切駅の近くになると大阪平野が一望に俯瞰出来るのが楽しみです。が近年ニョキニュキと高層ビルが建ち並んで来るに従って仁徳天皇ではないけれど個々の人々の生活の幸せが見えなくなって、近代化か強い経済力か知らないけれど巨大な怪物が庶民の町並みを食いつぶして来る様に見えるのは齢のせいでしょうか。。まさに墓石のように見えます。大阪墓地にしてほしくありません。

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  2.  経世済民〔世を経(おさ)め民を齋(すく)う〕から経済という訳語を作った先人には頭が下がります。
     非正規雇用と賃金切り下げで購買力が落ち込む中、大阪は近年、梅田周辺、湊町、阿倍野、上本町、ミナミ、キタと新しいビル街を作ってきましたが、結局先細りの小さなパイの取り合いで、一瞬のバブルの後に後発の街に消費者をとられて、パチンコ店や安売り店が無秩序に広がる街になりつつあります。
     街の開発が悪いというのではありませんが、雇用と賃金が安定しないとこうなってしまうのですね。
     そんなことは庶民の購買力に依拠する家電メーカーのトップ達も解かっているのでしょうが、1企業では対応できないと思う気持ちもわかります。
     かつては「国民春闘」が一定の処方薬の役割を果たしていたのですが、現状では即効性が感じられません。
     となると、本当に労働行政の出番だと思います。「この国に労働行政を再建しよう。」という世論を広げたいと思います。

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  3. 大阪駅前など、大都市ターミナル駅前の大型再開発だけを追求するのはギガントマニアともいうべき発想で、結果として、大阪駅前は人間の体力や行動力の適正規模をはるかに超えてしまっています。百貨店から百貨店へ移動するだけでも疲れてしまい、疲れてしまえばウィンドーショッピングの楽しみもありません。人間の背丈に応じた規模の街づくりということをもっと考える必要があると思います。

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  4.  この頃「世界街歩き」的なテレビ番組がいくつかありますが、世界には豊かさとは別に美しい街が多いのに驚きます。
     反対に言えば、多くの日本の街は広告と電柱が無秩序で目障りですね。
     目くじらを立てて神経質な街を造れというのではありませんが、メーンストリートぐらいは品良くしておきたいものです。
     無秩序で汚く下品なのが庶民的であり大阪的であるというような、テレビ局が嘲笑しながらふりまくステレオタイプのイメージを「信じなければならない」と思っている阿呆な大阪人が居ることに悲しくなるのです。

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  5. 木津川さんは「都市格」を上げるためには「文化」の力を高めるべき、これを阻むものに①貧乏、②多忙、③精神的緊張の3っつを挙げておられました。また、「大阪人」は本来、含羞の人、すなわち文化の人で心優しい人だと規定され大阪を「含羞都市」と表現されています。カジノ的経済発展で文化は生まれませんね。

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  6.  カジノ推進といえば、維新の代表の橋下氏と石原氏ですが、その石原氏の息子の石原宏高氏が大手パチスロメーカー及びその子会社からコンサルタント料という名目の金員を受け取り、公選法違反と思われる「選挙時に給与等費用を会社持ち」のパチスロ業者社員の派遣を受け、これも公選法違反と思われる「報酬を払ってのビラ配り等をその社員にさせていた疑い」ありと新聞で報じられています。
     これらのことから、橋下氏の主張も、結局、大阪経済のためにカジノというのはタテマエで、カジノ業者に癒着してその代弁をしているとみるのが正解だと思います。
     

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