「じっくり考えるのが邪魔くさい」という国民総疲労社会とでも名付けようか。
だから、ニュースのほんの瞬間に首相が映されて「福井地裁判決には専門家も誤認を指摘している」などと流れるものだから、(実はそのように発言した規制委の田中委員長が判決文を誤読しているのだが)、少なくない人々は‟特別に変わった裁判官が例外的に下した判決”のように印象付けられている。
ほんとうにそうだろうか。
急がば回れ! A4×46ページの判決文は短編小説よりも短い分量である。次のURL(最高裁のホームページ)をスクロールで反転させ、「・・・・へ移動」をクリックすれば読むことも印刷も可能である。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85038&hc_location=ufi
そして、その読解の参考のために渡辺輝人弁護士の意見を以下に紹介する。氏は要旨次のように述べている。
1 最高裁は、平成4年10月29日伊方原発事件上告審判決(結論部分は敗訴であったが)で、「原発事故の重大性にかんがみ、原発は万が一にも事故を起こさないよう、規制基準と審査がある」、「規制基準が不合理である場合は設置許可処分自体が違法となる」としてきた。ここは押えておきたい。
2 これは行政訴訟の判決で民事の差し止めのものではないが、安全神話のさなかに出された先例としてその意味は大きい。
3 福井地裁判決は、最高裁が示した「重大な事故は万が一にも起きてはならない」という価値観と、チェルノブイリ事故、福島第1原発事故を前提にして論を進めている。
4 判決は、新規制基準について以下のとおり不合理だと言っている。
① 万が一の事故に備えなければならない「基準地振動」を、地震の平均像を基に策定することには合理性がない。
② 免震重要棟の設置について猶予期間が設けられていることには合理性がない。
5 「基準地振動」と「クリフエッジ」とは、俗にいえば「基準地振動」は「これ以上はヤバい」で「炉心損傷に至る可能性がある」、「クリフエッジ」は「これ以上なら全てはオワリ」で「メルトダウンに至る可能性がある」もので、それは関電も認めている。
6 高浜原発3,4号機の基準地振動は550ガルとされていたが、ストレステストにより700ガルに引き上げられ、クリフエッジは973.5ガルとされた。
7 これについて判決は、原子力規制委員会は過去の16個の地震を参考にして予想される規模を推定したが、この数の少なさ自体が地震学の資料の少なさを示しており973.5ガルを超える地震は来ないという科学的根拠に基づく想定は不可能である。と言っている。
むしろ、記録された我が国最大の震度は岩手・宮城内陸地震の4022ガル(争いがない)であり、973.5ガルはこれをはるかに下回っている。
岩手・宮城内陸地震は内陸地殻内地震であり高浜でも発生する可能性のある地震である。また東北と北陸・近畿に地震発生頻度に有意差はなく、973.5ガルを超える地震が到来する危険はある。・・と判断している。
8 次に、関電は、炉心損傷が起こってもその後のリカバーでメルトダウンは防げると主張したが、同時に、「イベントツリー」(炉心損傷防止への対策手順)が少しでも上手くいかないとリカバー不能になることは関電自身が認めている。
9 判決は、全交流電源喪失から炉心損傷まで5時間、そこからメルトダウン開始まで2時間しかなく、不確実な要素が山ほどあるのにできる保障はないと指摘している。
10 基準地振動を超える地震動が来ることは「まず考えられない」という関電に対して、判決は、全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発で5回にわたり、想定した地震動を超える地震が、平成17年以後10年足らずの間に到来していると批判している。
以上、基本的には渡辺弁護士の意見に沿って記述したが、基本の文責はこのブログの記載者にある。
この外にも、危険性という意味では使用済み核燃料プールの方が危険だが、福島第1原発の事故でここに大打撃が生じなかったのは全くの偶然、誠に幸運と言うしかないとか、全世界のマグニチュード4以上、深さ100キロ以下の地震の1割が我が国国土で起こっているとか、あまり報道されていないが平成19年の新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発は深刻なダメージを受けてついに1度も動かすことができず、3.11以前から日本の原発事情は相当ヤバイ状況にあったことなどが解る。
以上のことから、未だの方には、以上の私の文などを無視して、判決文原文の一読をぜひお勧めする。
主文の1は次のとおり、
主 文
債務者は、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において、高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。
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