元日の新聞の永田和宏氏の歌に感動したことは何回か書いた。
妻は「今頃何を感心しているの!この夫婦はあまりに有名な歌人やないの!」と私の無知にあきれ返ったが、私には短歌は俳句と比べても何となく陰鬱という先入観があって食べず嫌いだったのである。
いや、それ以前に、歌を味わうというような心の余裕のない半生というか、心の貧弱な半生だったと先に立たない後悔を感じている。
ということで、今頃何を!と笑われそうだが、これもまた有名な本らしいが『たとへば君』という文庫本を買ってきて読み終えた。
夫婦史というような言葉はないのだろうが、夫婦の相聞歌を中心にした夫婦史で、出会いから別れまでが綴られていた。
学業優秀な二人の周りの出来事は私のそれとは大違いだが、ほゞ同じ年代の、ということは同じ時代時代の出来事の文章と短歌に理屈抜きで吸い込まれる感じがした。
当然のことながら、序章は青春ドラマであり、 ブラウスの中まで明かるき初夏の日にけぶれるごときわが乳房あり(河野裕子)の頃は、シーンは違えど私も青春の真っただ中だった。
そしてそして、平然と振る舞うほかはあらざるをその平然をひとは悲しむ(永田和宏)という地獄のような乳癌の闘病生活を経て、永田氏は、あほやなあと笑ひのけぞりまた笑ふあなたの椅子にあなたがゐないという挽歌を贈っている。
発病後の歌が多いせいか悲しい読後感が残るが、解説の川本三郎氏が書いているように、全く別のところで生まれ育った男女があるとき出会い、結ばれ、ひとつの家庭を作ってゆく。子供たちが育ち、家を出てゆく。やがて別れが来る。・・幾世にもわたって繰り返されてきた人の営みである。・・なら、限られた日々を大事にしたいと強く思わせる本であった。
木の名草の名なべては汝に教わりき冬陽明るき榛(はん)の木の林 永田和宏「華氏」より
返信削除