テーマといい著者といい面白そうな本ではあるが、年金生活者が3,000円近い小説(本)に手を出すにはどうしても妻の顔が頭をよぎる。
そこで、内容がよければそのうちに文庫本になるだろうと腹を据えて待っていたら、2015年1月に文庫本化の広告が出た。
上野誠著『天平グレート・ジャーニー 遣唐使・平群広成の数奇な冒険』。
大学教授が小説を書くか?との予想される疑問には「あとがき」で先手を打っているが、その中でいろいろ講釈しているが「師と仰ぐ折口信夫も小説「身毒丸」を書いている」という答えが核心のよう。
内容は天平の遣唐使の判官・平群安朝臣広成(へぐりのあそみひろなり)が長安からの帰途林邑国に難破し、大冒険の後渤海を経て帰国する物語が、続日本紀等の記録を踏まえて綴られている。
私の好きな陳舜臣の中国の歴史小説に負けず劣らず面白かった。
学者としての冷静な目がそうさせたのだろう、唐の都での倭の地位の低さも淡々と書かれていた。
奈良の地などにいると、やたらに奈良時代(や大和や天皇の歴史)を賛美する文に出会って食傷気味になるが、反対にこの冷静な記述が小説の世界を大きくしているように思う。
広成たちは唐土の漢語世界に苦労したようだが、平成27年の冬の奈良公園の90%以上は中国語が占めている。
これでいいのだ。
先日も道を尋ねられて99%ジェスチャーで応えて、最後は再見(さいちぇん)と手を振った。
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