2013年2月27日水曜日

近江の人には頭が下がる

  紅生姜を漬けていたのだが、黴を生やしてしまった。
  「塩が足らなかった」「紫蘇の一部が外に出ていた」と、妻は反省しきりである。
  ことほど左様に漬物といえども実際には難しい。
  それを・・・・・このように美味しい料理に仕上げるのであるから、近江の人には頭が下がる。

  義姉から湖北のお土産と言って鮒ずしをもらった。
  米粒は一旦除去し、酒粕を敷いた上にガーゼをかけ、その上に並べ直したという、少し「一般大衆」向きにマイルドにしたお土産ヴァージョンのものだったが、文句なしに美味しかった。
  テレビタレントなら「あま~い」と叫ぶところだろうが、鮒ずしが甘いはずもない。
 「この美味しさは何に一番近いやろ?」と妻と考え込んだが、塩辛よりもやさしいし、干物よりも香りが良いし、「やっぱり水産物加工品の中の雄やな」ということで一致した。

  熟れずしの起源は紀元前4世紀から3世紀の周から漢と言われている。
  しかし、塩漬けを行い、その後空気を遮断したうえで重石を掛けて、場合によっては2~3年飯で本漬けするのは他国にも例がないと、発酵学の権威小泉武夫先生は絶賛されている。
  それは清酒の醸造に似た繊細な管理によって初めて生まれる味らしい。
 だから、有史以前からの、この列島に住む民族の味である。
 発酵の味は大人の味である。
 だから、ハナから手を出さないのも、ガツガツ食べるのももひとついただけない。
 ゆっくりと味と香りを口中にころがして味わってみてほしい。

  食わず嫌いは人生を半分しか生きていないようなものだと私は思っている。
  ビバ鮒ずし。


9 件のコメント:

  1. 先日の旅の最後の昼食は錦市場の中の「黒豆ごはん」の店に、食後は、錦市場を買い物がてらにブラリ、ブラリ、昔に比べ観光客向けの店構え、品物が増えているようで漬物もパック詰め、立ち食い用の天ぷらや若者向けのファーストフードの様なものが目立ち、鮒寿司を置いていたのは1軒だけでした。

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  2. スウェーデンの缶詰でシュールストレミングというニシンの塩漬けを発酵させたものがあります。10年ほど前に口にしましたが、缶を開けると壮絶な臭気が漂い、ハエの大群が襲ってくるという恐ろしい代物でした。別の機会に開けた時は、発酵が進みすぎて身の全てが溶け、骨しか残っていなかったというすさまじいものでした。

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  3.  mykazakさん そうですか。私は本やテレビで知っているだけで食べたことはありません。よかったら貴方自身の感想を具体的に教えてください。その地の方々は「美味しい」と思っているに違いないので『その美味しさ』は知りたいものです。
     ブログに書きましたように、鮒ずしは決して臭気というものではありません。発酵の香りです。熟れずしの進化形で高級食材(料理)の域に達していると思います。

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  4. 菜の花美人2013年2月28日 11:25

    ずいぶん前に、ご馳走になった、味が忘れられずにいました、手にする機会が訪れたことに、感謝しつつ、食べましたが!ちょっと?微妙に感じました。日本酒もすすみましたよ!

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  5.  菜の花美人さん コメントありがとうございます。高級珍味・・美味しくいただきました。
     鮒ずしの症状は3段階あると思います。
     第1度は、「なんや これは」と、料理であると認められない症状です。
     そして第2度の「微妙」という段階に深化しますと、それは第3度の「虜になる」の前駆症状と言えましょう。
     そう、鮒ずしは魔女のごとく私達を絡めとってゆくのですね。
     
     

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  6. ぼくのシュールストレミング体験は、ハエが舞ってくるという視覚面ですでに怖気づいたというのもあるかもしれませんが、ニシンを一口含むとあまりの臭気に喉を通らず、なんというか口で何かが爆発したような感じでした。しかし、それを見ていた周囲の関東人は、関西人は臭いものが苦手なんだよ、くさやだって食べられないだろ~と侮蔑の眼差し。今に見ておれと復讐の機会をうかがっている次第です。

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  7.  その種の臭いに拒否感の出るのはそれが腐敗臭と紙一重だからでしょう。
     関西は一般に新鮮な食材が豊富で、発酵・保存食が少ないということでしょうか。要は食する機会が身近に少なかったということでしょうね。
     だからこそ、そんな都周辺(畿内)で洗練されて生き残ってきた「鮒ずし」や「すぐき」は発酵食のエリートでしょう。
     さて、シュールストレミングですが、これだって、味盲というのが差別用語なら味音痴だけが食べているものではなさそうですから、やはり食べ慣れると虜になることでしょう。貴兄のリベンジリポートを楽しみにお待ちいたします。

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  8. チャプリンの「独裁者」という映画を覚えておられますか。映画の中で最初のほうで独裁者ヒンケルが演説する場面があります。チャプリン研究家の「大野裕之氏」が以前NHKの知るを楽しむの番組と解説本でその演説の解読をしています。チャプリンは出鱈目なドイツ語もどきの発音で観客の笑いをとっていると思われていたのですが実は英語、ドイツ語を混ぜ合わせた言葉遊び、ジョーク等がふんだんに使われているそうです。「通訳」以外は日本語字幕はつけられていません「ヒンケル語」の演説を解読するとチャプリンの痛烈なヒットラーの批判、出鱈目さとそれをお笑いにしているのが解りました。全部は書ききれませんので「ニシン」が出てくる一節。
    ヒンケル・・ああヘリング(ナチスのゲーリング元帥の事)可哀相なヘリング、まずいニシンよ
          心から言いたいことがある。ヘリングとガービッチ(ナチスのヒムラーの事)ニシ      ンとゴミ箱よ。ニシンとゴミ箱。ニシンはゴミ箱で臭くなる。そしてゴミ箱はニシ      ンを入れると臭くなる。ああ、ニシンとゴミ箱よ。
    ところが通訳は「結論として総統は心から世界の平和をねがっているのです」(字幕あり)と通訳しています。
    正確に真実を伝えなくてはならない「通訳」がとんでもないクワセモノである事もチャプリンはするどく批判していると思います。今のマスコミやジャーナリストには眉毛からつばが滴り落ちるぐらいたっぷりと付けなければならないことを彼は70年前から教えていると思います。
    という本を今回、山小屋で読んできました。やはりニシンは臭いようです。

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  9.  なんと有意義な山小屋生活なのでしょう。
     楽しく為になる知識をありがとうございました。
     「ヒンケルのニシンと通訳」・・・さんまさんではありませんが、手帳に書いておきます。
     ただ、米原万里さんの本を読むと、それに近いことは今でも現実にあるようですね。

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