この指示は、2019年施行の「働き方改革関連法案」で労働基準法に定められた、残業時間の罰則的上限規制などを緩和しようとするもので、まるでブラック企業経営者の発想だ。
そしてこれまで労働行政が積み上げてきた、長時間労働の是正によって、過労死・過労自死等の健康被害を撲滅し、多くの労働者が苦しんでいる仕事と育児・介護の両立支援促進という理念をも真っ向から否定する悪政だ。
現在、労働者側代表と合意(36協定)によって設定される残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間。ただし、臨時的な特別の事情がある場合は年720時間(ただし、休日労働を含めば960時間)迄は延長可能。単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を超えられず、限度時間を超え時間外労働を延長できるのは年6ヶ月が限度とされ、この規制の違反には刑事罰も予定されている。
しかも、規制の上限内容は医師等によって検討されてきたいわゆる過労死ラインを超えるもので、規制が浸透せず遵守していない使用者も世の中にはあふれている現状では、これまでの政権与党自らが「働き方改革」として成立させた労基法の罰則的上限規制を一層社会に浸透させることこそ重要なのにである。
重ねて言うが、長時間労働は、脳心臓疾患による過労死や、精神疾患の有力なリスクファクターだということは疫学的にも証明されていることだし、さらに仕事と家庭生活の両立(ワークライフバランス)を阻害し、少子化対策や女性のキャリア形成、男性の家庭参加をも阻害し、社会全体の活力を奪うものだ。
さて、統計は諸条件の違いを考慮しなければならないが、日本の正規雇用の労働時間は、バカンス制度があり、残業を原則として考慮しない西欧に比べて異常に長くなっている。一方、実質賃金は上がらず、かつてゴルバチョフが「ウサギ小屋だ」と馬鹿にしたマイホームさえ勤労者には高嶺の花となっている。
にもかかわらず、アベノミクスの結果、一人当たりのGDPは主要7か国中最低で、OECDの底辺クラスである。
高市内閣は時代を逆走しようとしている。
労働時間の規制緩和を許してはならない。労働者の生活が苦しくなるということは、高齢者を含め社会全体が辛く貧しくなるということだ。

賛同します
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