607年、推古朝の聖徳太子が小野妹子等遣隋使を派遣し、「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す」との書を提出したところ、隋帝の煬帝(ようだい)は不快となった(随書東夷伝倭国条)という話は、「日本は以後中国と対等の関係を築き、中国を大国とみなすことはなかった」という通説(常識)へと発展したが、この本はそういう一部のことだけでなく、倭の五王の時代から、5回の遣隋使、15回の遣唐使、さらにはその後までおよそ500年間の日中間の交渉の軌跡を実証的に、「常識」に疑問を呈しながら描いている。
2021年濱田青陵賞受賞者である河上麻由子著『古代日中関係史』は休み休みで読んだこともあり、読み終わるのに7月の一か月を要した。
活字も詰まっていてけっこう疲れた読書であったが、実証的な論の組み立ては気分の良いものであった。
書店の古代史のコーナーには多くの本があふれているが、著者の気に入った史料だけを抜き出して物語を史実のように語る本も少なくなく、そして実証的と言っても何しろ限られた史料しか残っていない中で、この本は、しっかり書架に残しておきたいと思う本である。
冒頭の「聖徳太子による対等の態度」というのも実証的にはあり得ず、反対に言えば、明治からの近代日本が列強との戦争に突き進んだ下で、「まわりの国々を見くだして、いばっていた隋(初等科国史)に対して対等関係を主張した聖徳太子」という国策の宣伝によるところが大きい。
古代史を勉強すると、あちこちで陵墓問題とも衝突するし皇国史観という近代史とも衝突する。
現実に、政権党の総裁(首相の有力候補)を巡って、学問の世界や言論の世界を政治権力で従わせようという人物らが蠢動している今日、こういう実証的な著作が大いに広まれば好いと思うが・・・。

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