夫の吉行エイスケはダダイズムの作家でありプロレタリア文学には批判的であったが、親密な作家仲間は次々に特高警察の弾圧を受けたり、それゆえの逃亡生活に入っていった。もちろん、エイスケ・あぐりの周辺にも特高の目が光り、不当な捜査もされていた。友人知人も次々に徴兵、戦死、子を宿した戦争未亡人等々になっていった。エイスケ自身は戦争とは直接関係のない心臓麻痺で急逝している。
あぐり自身は美容師の最先端にいたから、「パーマは敵だ」と攻撃され、パーマネントの機器は強制的に供出され、果ては建物疎開を命令され、結果的には空襲で美容室は灰燼に帰した。朝ドラでこれらの場面で「大活躍した」のは国防婦人会の町内のおばさんだった。
ファシズムの分析というとどうしても先の特高警察の弾圧がクローズアップされるが、日々の庶民の暮らしと思想を圧迫していたのは国防婦人会などの近所の普通の人々だった。(妹尾河童著『少年H』でもそういう相互監視の結果、親は酷い拷問や嫌がらせを受けている)国防婦人会のその負のパワーは、軍人の妻としての意識、戦争未亡人の復讐心、さらには子が戦死した母親の「不公平感」などもあったが、街中に成人男子がいなくなり、必然的に守備範囲が拡がった女性たちの生きがい、充実感もあっただろう。なにしろ選挙権もなく、一人前の人間扱いされていなかった女性が「お国のために」働き場を与えられたのであるから。
社会というものは一筋縄ではいかないものだ。現代でいえば、決して恵まれていない庶民が生活保護や福祉を受けている人々を攻撃するようなものである。コロナ下で自粛生活を守ってきた庶民が「強力な緊急事態法=改憲」を求めるようなものである。
8月15日、いわゆる終戦記念日、単純に一部軍人が悪かった的な話で「いいね!」とするのでなく、ファシズムに向かう小さな囁きを一つひとつ告発していかないと、知らないうちに幽霊は成長する。今日一日ぐらい「考えない罪」「行動しない罪」をあれこれ考え抜くのも悪くない。
15年戦争のアジアの人々と日本の人々に黙祷。
8月14日夜のNHKスペシャル『銃後の女性たち』は国防婦人会の特集だった。
返信削除「成長した」婦人会は相互監視と同調圧力の怖ろしい組織に仕上がった。
「あの家は金属供出でまだ隠している」ということも判った。
14歳からは志願兵に志願させるよう母親を指導した。男の子のいない娘ばかりの母親はいびられた。
これらの生々しい証言は、昨今の嫌な同調圧力とシンクロする。
国防婦人会が初めて誕生した大阪で、維新の政治を支える信者が誕生していることと何となく重なってしまう。
私も久しぶりにじっくりテレビを観ました。「台所から街頭へ」をスローガンに女性に社会参加の場を作ったはずの国防婦人会が、自分の思いや考えを表明するのもはばかられる組織に変貌していく。生々しい証言にぞっとしますが、「国防婦人会が初めて誕生した大阪で、維新の政治を支える信者が誕生していることと何となく重なってしまう」という長谷川さんの思いは言い得て妙、見終わって私も同じことを考えてしまいました。
返信削除猫持さん、戦時体制というものは思わぬ方向から固められてくるものですね。
返信削除さて「あぐり」の「会長?」らしき婦人ですが、常々「息子は戦地で戦っている」と口にしていたが実は戦死していたのです。私はその「怨念」の向こうに「私だけ不幸であっては許さない」的な、戦死していない家族の幸福(維新の言葉でいえば既得権益者)を引きずり下ろしたい底意を感じました。
こういう歪んだ「復讐心」が実際には社会的にも大きなパワーを発揮したりします。そこを変えていくのが平和・民主運動でも大切なことのように思います。