だいたいが「動的平衡」という言葉そのもののイメージが湧かなかった。
だから朝日新聞の連載でも、その後の書店での立ち読みでも、読書意欲が生まれず、生命倫理かなんかの本かと手にも取らなかった。
それに、別途購入したことのある高校の物理、数学、英語を学びなおすような本は、ことごとく挫折を繰り返してきた経験もある。
そこで、「今回もまあそのように挫折してもよいか」と半ば冷めた感じ(ダメモト)で購入したのがこの本である。
だから読み始める前の先入観はゼロだった。
いつものように、これは書評でもないし読書感想文でもないが、あえて言えば科学研究の周りのエッセイらしく、まったくの素人の私にも非常に楽しく読み進められた。
と言いながら、鋭い哲学的切口が随所にあり、感心しきりだった。
さて、と言って一つも紹介しないというのもパッとしないので一つだけ披露すると、著者は、込み入った論考の文章は、電子ファイルでなく紙にプリントアウトして読むらしい。それについて・・、
「これは、我ら年寄り世代の郷愁にすぎないのであろうか。必ずしもそうではない。生物の視覚は動くものに敏感だ。それは敵あるいは獲物かもしれない。反射的にすぐ行動する必要がある。・・一方、じっくり観察し、分析し、思索を深めるためには、対象物が止まっている必要がある。・・コンピューターやスマホの画面の文字は、止まっているようでいて実は絶えず動いている。電気的な処理でピクセルを高速で明滅させているから、文字や画像はいつも細かく震えているのだ」というのも、目から鱗というよりも、「やっぱりそうだったんだ」と納得した。
よって、興味が湧けば、この新書を手にとって読まれることをお勧めする。けっこう面白い。著者がカジノ万博に加担しているという生臭い話は別にして。
※ この本の話を妻にしたところ、そのいくつかの章のことは、「ラジオで聞いて知っている」とのことで、頑なな書籍重視派はぎゃふんと言わされた。
0 件のコメント:
コメントを投稿