2018年1月23日火曜日

軍事ジャーナリストのリアリズム

 12月の読売新聞の世論調査では「米国が北朝鮮に対して軍事力を行使すること」について「支持する」が47%もあったといわれている。
 きっと「北朝鮮の核開発やミサイル実験は目に余るから米国が懲らしめてくれるなら気分がいい」との感情によるところが大きいだろう。
 同時にそれは、「中東やアフリカ大陸であったこれまでの紛争のように、日本列島から離れた地で起こることだろう」し、「72年間戦場にならなかった日本列島で戦争が起こることはないだろう」という気分を大前提にしていると思われる。
 さらに言えば「北朝鮮軍は米軍の前に簡単に制圧され、核もミサイルも一気に潰せる」と信じた上のことだろう。しかしほんとうにそうだろうか。

 軍事ジャーナリスト田岡俊次氏はそれらの想像を「無知」「無関心」によるものだと断定し、朝鮮戦争再開後の最終的な北朝鮮の滅亡は必至だが、滅亡以前に「自暴自棄の状態」で「死なばもろとも」になった報復攻撃のリアルな想定を次のように語っている。

 北朝鮮の弾道ミサイルの多くは中国との国境に近い山岳地の谷間に掘られた無数のトンネルに、移動式発射機に載せて隠されている。
 偵察衛星が北朝鮮の上空を通るのは1日に1分程度、米国の光学衛星は5機、夜間レーダー付き衛星が6機、日本がそれぞれ2機で計15機だが、これでは発射準備をし始めた目標を発見できない。
 偵察機では撃墜される公算が大きい。
 「瞬時の対応」のこれが現実だ。

 次に日本の迎撃システムは、4隻のイージス艦に各8発の迎撃用ミサイルを搭載だから、全弾命中でも8目標(8個のミサイル)にしか対処できない。
 北朝鮮は中距離ミサイルだけでも200ないし300発、核弾頭も30発はあると思われる。
 イージス艦が撃ち洩らしたミサイルは短射程のパトリオットPAC3で迎撃することになっているが、PAC3は4発装着し1度に2発発射するから、1地点2輌で4目標にしか対処できない。

 6年後の2023年に2機2000億円のイージス・アショアを発注し、1発37億円のSM3ブロック2Aをイージス艦8隻に搭載しても弾の数は1隻に8発である。
 結論的には、北朝鮮のミサイルを瞬時に全滅させることはできず、報復的に発射されたミサイルに対して装備されている日本の迎撃システムは、いわば「儀仗隊」に類するものだ。(実戦とは程遠い儀仗兵)

 北朝鮮が昨年9月に実験した水爆は広島型の10.7倍、ウィークデーの昼間に国会議事堂に落されたとすると400万人以上の死傷者が出るだろう。(要旨引用おわり)

 米国では「ICBM(大陸間弾道ミサイル)の完成前に予防攻撃すべし」との論が小さくない。
 タカ派のリンゼー・グラム上院議員がNBCテレビで語ったところでは、トランプは「それをやれば大勢の人が死ぬけど」といい、「ただし、それはあっちの方、こっちじゃないけどね」と付け加えたという。

 12月1日にこのブログに紹介したが、ペリー元米国防長官は「朝鮮半島での戦争は日本にも波及し、その被害は第二次世界大戦の犠牲者に匹敵する」「これを何故日本の人々が理解できないのか、私には理解できない」と語っている。

 北朝鮮の核開発もミサイル実験も許しがたいと考えるのは正しい。
 同時に、以上述べたようなリアルをしっかり確認したうえで議論する必要がある。
 田岡俊次氏は「平和ボケのタカ派」ほど始末が悪いと指摘している。

     懲らしめてふ解説者の言軽し

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