その1 2月11日というのは明治6年に定められた紀元節の日であった。
それは日本書紀神武天皇紀の「辛酉年春正月庚辰朔、天皇橿原宮に卽帝位」を根拠として決められた。
アジア諸国を蔑視した明治政府が中国の思想「辛酉革命説」に基づく上記記述を根拠にしたことも可笑しいが、何年前の辛酉年にするかには根拠はなく、それをエイヤッと紀元前660年とした。
その辻褄のため神武天皇は127歳の長寿とされ、その後も100歳を超える天皇を何人も創作した。
ちなみに近年、考古学界では弥生時代の開始時期を繰り上げる方向で議論が戦わされているが、一般的には紀元前660年は弥生時代前期とされている。つまり、国家の始まり=建国という「神話」は神話であって歴史(史実)とは程遠い。
一般論として、国が神話を基に建国の日を定めることを否定するものではない。
また、神話が非科学的だと眉をひそめるつもりもない。
だがしかし、明治政府は神話を「史実だ」、故に「天皇は神だ」「アジア諸国より優った国だ」「戦争は必ず神風が吹いて勝利する」と教え込み、アジア諸国民や日本の庶民を塗炭の苦しみに陥れた軍国主義国家を作ったのだった。
この教育・宣伝を推進したのが学校教育と国家神道だった。
学校の奉安殿の前で敬礼を忘れた少年Hは殴られ、街には不敬罪があった。
神戸でテーラーをしていた少年Hの父親は、アメリカに帰った元お客からの絵葉書故に警察で拷問を受けた。
その国家神道とは、幕末まで営々と営まれてきた「村の鎮守の神様」を内務省の管轄下に組織し、「宗教ではなく公的に国家祭祀を行う組織」にしたものだった。
そのため戦後は、絶対的天皇制の深い反省から民主国家を目指し、故に国家神道は廃止されたが、戦前の特権的地位に未練を感じた関係者は神社本庁を組織し、後に国民運動組織「日本会議」などを前面に立てて、紀元節復活、国旗国歌法制定の運動を組織し、そういう戦前回帰、民主憲法改正の運動の中で昭和41年建国記念の日は制定された。
そこで現代社会であるが、トランプ大統領の就任や英国のEU離脱、先進国での排外主義的ネオナチズムの台頭等の状況、つまり「ポスト真実」が世界を危うくしていることは論を待たない。
権力者が嘘をつく、少数者や弱者を社会の不幸の原因、敵として感情的に攻撃する、交渉や理知的議論よりも強制・統制と軍事力で脅迫する政治である。
20年前の1997年(平成9年)、それまでの右翼団体を結集した日本会議が誕生した。その直後の中央大会で壇上から訴えられた次の提言を見るとこの組織の性格と目的が明らかだ。
●主権回復の原点は憲法改正(平沼赳夫)
●夫婦別姓に反対し家族の絆をを守るために(高市早苗)
●近隣諸国条項、河野談話の撤廃を(中川昭一)
●憲法は国家哲学の表明(長谷川三千子)
●中・韓両国の検定下にあるわが国教科書(藤岡信勝)
●国防省設置のできない内閣は総辞職せよ(西村真悟)
●拉致された国民を救えない国家とは何か(西岡力)
今この国では、怖ろしいほど地道に積み上げられてきたこういう戦前回帰の右翼運動と、先に述べた劇場型、ワイドショー的「ポスト真実」の政治が合体して、問答無用の強行に次ぐ強行が繰り広げられているのである。
理性だとか知的議論などというのは嘘っぽい、人間のホンネはもっと醜いものと言って何が悪い、・・というようなニヒリズムと、不満とイライラの解消のために「いじめる側」に参加したいという熱狂の社会が現実にあちこちで発生している。
そういう下で「建国記念の日」を迎えているのである。
それ故私は、建国記念の日に反対し、多様な考えが共存できる民主主義を守りたい。
2月9日付け朝日新聞(写真掲載)の島薗進氏インタビューは一読に値する。立憲主義の危機を切々と理論的に訴えられている。
春寒し熱狂を生むは絶望か
その2 上記と同じく2月9日付け朝日新聞によると、財務省近畿財務局は、「原則公表」とされている国有地売却額の情報公開を、記事記載のこの1件だけ拒否・隠ぺいしたという。
記事によると、路線価に基づく国有財産台帳は12年時点で8億7千万強で、7億円での購入希望を断られた法人もあるらしい。
そして、常識的には売却額とほぼ同額とされる買い戻し特約の代金が1億3400万で、隣地を豊中市に売った額の1割程度という不思議、疑惑。以上、記事による。
なお、売却先の学校法人森友学園が建設中の学校は「瑞穂の國記念小學院」で、すでに運営している幼稚園では教育勅語や五箇条の御誓文を暗唱させ、軍歌を合唱させていることで有名。
籠池総裁(理事長)は日本会議大阪支部長(又は役員)で名誉校長は安倍昭恵氏。
日本会議のそうそうたるメンバーが視察したりして、日本会議による戦前教育復活の先頭部隊の様相を示している。
よって、日本会議主導の運動は、時代錯誤の軍国主義的であるだけでなく、倫理も崩壊していると私は思う。
察するところ、日本会議の重点課題は ●政教分離の撤廃を含む憲法改悪、●教育勅語に基づく戦前教育の復活のように思われる。その二大課題を体現しているのが森友学園だろう。この深刻な事態を看過していてはいけない。
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