2012年2月10日金曜日

寒い日は吉野葛

   皮肉を言えば・・、冬は近所の駅の躑躅(つつじ)の植込みが立派である。
 フェンスで遮られた道路から一段下がって、排水路としか言えないような小川の向こうにそれは見事である。

 それが「なぜ冬か?」と言うと・・・、五月の連休の躑躅の花の季節には、この植込み全体を葛(くず)の葉が傍若無人に覆ってしまうからで、毎年春から秋まではホームに立ちながら「近鉄の社員はこの現状を何も感じないのだろうか」と心の中で怒っている。
 秋の葛は、躑躅の代わりに藤に似た綺麗な花を咲かすのだが、少し濃すぎるというかキツすぎるので、躑躅を覆った罪を償ったとも思えない。 と言うか・・葛を花として鑑賞している乗降客はほとんどいないのではないかと想像する。

 そして私は・・植込みの手入れを私に任せてくれたなら・・・躑躅は咲き誇り・・・そしてそして、見事な葛の根をこっそり手に入れることが出来るのに・・・と一人夢見ている。


 先日、大宇陀の創業1615年(元和元年)吉野本葛「黒川本家」の社長の話を聴く機会があった。
 他の人々は、本葛と他の澱粉の違いや、本葛の和菓子や料理について、さらには本葛のイソフラボンについて等色々質問していたが、私は、根を掘る季節は何時か、どういう風に掘るのか、他人の土地の葛を掘るのに問題は生じないのか、水に晒す回数と方法は等々を質問して、周囲から怪しい視線を一斉に浴びてしまった。

 夏の葛餅もよいけれど、冬の葛湯や葛切りも非常によい。曰く云い難い味わいがある。
 先月まで、実母の入所中は「とろみ食」として随分とお世話になった。(ただし、それは片栗粉)

 上の写真は、黒川本家のものではなく家にあった井上天極堂のもの。
 下の写真は、黒川本家の葛湯。

 黒川本家社長の話を聞いて判ったこと・・・・
 葛湯は水に溶いてから温めること。お湯で溶いてダマにならないのは本葛でない。
 人工林では日光が不足して葛が採れず、奈良県下全域の雑木林で吉野葛?の根を採っている。
 掘り出した葛根は新鮮なうちに処理をしないと質が落ちる。
 水で何回も晒すのだが、一部の安物には漂白剤を使用したものがある。
 通常は10回程度晒すのだが黒川本家では香りを大事にして5~6回にしている。そのため、晒す回数の度に不純物を削り取って捨てている。
 1kgの葛根から80gほどの葛粉ができる。
 工場見学は品質管理の観点からしていない。
 高級和菓子店を一番のお客とする卸売店だが、アンテナの意味もこめて若干のレストランを出店した。
 ・・・ということだった。

 カタクリから作ったほんとうの片栗粉はほゞ消滅し、その名はじゃがいも澱粉の総称になった。もう誰も詐称だと訴えない。
 本蕨(わらび)粉を使った蕨餅は限られた高級和菓子店でないと手に入らない。
 葛粉も先の話のとおり微妙な変化をとげつつある。
 『効率一辺倒』できた社会が壁にぶちあたっている今日、体を温めつつ頭を冷やしてホンモノを見つめなおしたい。もとい、ホンモノを食したい。  

0 件のコメント:

コメントを投稿