2019年1月26日土曜日

正直な議論

 毎勤統計問題のマスコミの報道を見ていて、私にはどうしても違和感が否めない。
 例えば23日付け朝日朝刊の主見出しは『統計不正「知りつつ踏襲」』で、リード部分では「課長級職員らが間違ったやり方だと知りながら漫然と前例を踏襲し、部長級や局長級の職員は実態の適切な把握を怠っていたとして、ガバナンス(組織統治)の欠如があった」という特別監察委員会報告を記述して、「次官ら22人処分」という小見出しにつなげている。
 
 ▢ 不正のきっかけ ▢
 報告は「きっかけ」について「都道府県からの負担軽減の要望だった」と述べているが、東京都は「そんな文書はない」と述べている。
 だとしたら、東京都の担当者が「どうにかなりませんか」と言って厚労省担当者が「分かりました」と言ったことになる。私にはそんなことは信じられない。
 「法律・制度に立って融通が利かない」と批判されるような中央省庁が、そんな「そら恐ろしい」独断をするわけがない。
 全数調査を抽出調査にして厚労省にはメリットはない。メリットの生じたのは東京都庁の統計実施部門と東京所在の大企業である。
 東京都の要望、大企業の要望を受けたハイレベルの政治の介入無しに「聖域」でもある基幹統計の基本を変更したというようなことは考えられない。

 毎日新聞デジタルによると、2003年以前から中規模事業所の抽出率が法定よりも少なかったという。それを2004年に是正しようとして業務量増になる東京都から反発を受けて東京都の大規模事業所件数減ということが起こったようだと。
 この話は予想外だし正確かどうか私にはわからない。
 そうだとすれば、統計調査の構造的問題ではないかと思う。冷静に根本的議論をすべきではないだろうか。

 ▢ 2004年のデータ処理 ▢
 統計の技術的問題でいえば、抽出にしたならばどうして全数に「復元」しなかったのかという問題がある。これはもしかしたら完全にミスだったのかもしれない。
 ただ、古賀茂明氏の見解では、「2003年以前から東京都の回収率は無茶苦茶に落ちていたのかもしれない」という。その理由は、2003年と(変更後の)2004年の統計に大きな変化が見られないからだという。
 「統計は極めて大事だ」というマスコミは当時の各都道府県の回収率の実態を追求すべきである。
 古賀氏の推測どおり、「全数調査しました」というタテマエと異なり「未回収」が追求できていなかったとしたら、国、地方を問わず「行革」の名のもとに統計部門職員を減らし続け組織を破壊してきた政治の責任を問うべきであろう。
 共同通信24日によると基幹統計のうち21統計に法令違反の可能性と報じられている。

 ▢ 安易な前例踏襲 ▢
 ここは指摘どおりであるが、官民を問わず全国のサラリーマンは「よく言うよ」という気分も持つと思う。
 私は現職時代、危機管理や事故問題の再発防止策を考え職員研修をしたこともある。
 そのとき強調したのは、「問題が発見された。さあ責任者の処分だ」では解決しない。問題が隠れる文化ができる。問題発見者を誉める。そして全員体制で解決する文化を作ることだということだった。
 また、できもしない対策を作らないことだった。例えば管理者は担当職員の後ろに立って一から十まで観察するとか、全ての郵送物を点検するとか等々、人員と労働時間から見て不可能な文言を並べて「対策はできている」と言わないことだ。
 言いたいことは、安易な前例踏襲と言うは易いが、問題が発覚すれば直ぐに対応できる人員体制は不可欠だということが。
 そこを抜きにしていくならば、官民を問わずこの種の問題は必ず再発する。必ず。

 ▢ 20018年の補正 ▢
 20018年にデータを復元(補正)した理由が、アベノミクスの失敗を覆い隠すための大きな要請があったためであったかどうかは私にはわからない。
 統計の初歩的誤りを放置出来ないと考えた担当部局の決断が、たまたまアベノミクスや消費税問題と重なったのかもしれないし、「もっと伸びたようにできないか」という指示があったかどうかはわからない。
 いずれにしても、政治家を抜いての調査では幕引きありきだし、再発は防止できない。
 官民を問わず正直に洗い直す議論が一番大事である。
 そういう正直な議論に一番ブレーキをかけているのはマスコミの論調である。

 国公労働者はマスコミが流す官僚像のようなものでなく、その多くは立法趣旨に沿ってよい仕事がしたい、国民のための仕事がしたいと思って働いている。
 そのために、現場を無視した定員削減には労働組合を通じてなどでほんとうに悲鳴を上げてきた。
 メディアはこういう理性というか善意に対してほんとうにどう対応してきたのか。

 劣悪な民間の労働条件を改善しようとするのでなく、反対に民間に比べて公務は恵まれているかのような前提で、公務員は減らせば減らすほど正義であるかのような世論の誘導をしてこなかったか。
 ほんとうにみんな冷静に議論をしよう。
 公務のOB労働者も発言しよう。
 現職の労働組合も発言しよう。

   防寒は猫の首輪のキャップなり

9 件のコメント:

  1. 構図としては、33000件のサンプルを取ることは決まっていて、03年以前にそれを勝手に減らしていたのが問題の発端ですね。それをまずいと思った担当者が全体のサンプル数を元に戻したが、499人以下の抽出調査分を元に戻すだけだと都道府県の負担が大きいので、全数調査分を一部減らしたら、全数調査の母数に復元する処理を忘れていて、今度は数字がおかしくなってしまったという説明です。他省庁の統計問題も発覚し、政府は「毎勤統計は給付等の国民生活に大きな影響を与え、統計の数字も間違えたので大きな問題だ。しかし、総務省に届出た方法と異なる方法で実施していても統計上の数字が大きく狂わなければそれほど大きな問題ではない」と言いたいようです。特別監察委の報告も03年以前のサンプル数削減問題は「統計上は復元していたので誤差は少ない」と事実上容認し、18年のデータ復元も同様に「手法上は改善だ」と非常に甘い姿勢です。政府も特別監察委もそのラインで逃げ切りを図ろうというのが見え見えです。特別監察委の調査が実際には関係者聞き取りの多くを厚労省に任せていたというのは想定外でしたが、事態収拾のストーリーを関係者が描いて、その範囲で聞き取りしたということなのでしょう。アベノミクスとの関係で言えば、18年の発表は下方修正でしょうが、17年以前の発表は上方修正のはずなので、中期的には発表より賃金が上昇していたのかもしれません。しかし、1年前の「働き方改革国会」の前に自らの統計手法の誤りを発表を進めようとする気概のある幹部はいなかったでしょう。これはやっぱり現在の政治と官庁の問題です。

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  2.  mykazekさんありがとうございます。非常に参考になりました。
     ところで、03年以前のどこかの時点で中規模事業所のサンプル数を減らしていたのはなぜでしょうか。不思議です。ただ抽出調査の統計としては一定数の調査と調査事業所の一種の回転と復元処理が出来ていたとしたら、純粋に統計として見れば問題は小さかったかもしれませんね。
     04年の今回の問題も、そういう意味では”発想”自体はそれを改善しようというものだったのかもしれません。ただそこで東京都の反発があったのでしょうか。それにしてもそんな決断はハイレベルの決断だったのでしょうから、担当者レベルではなかったと思われます。
     それにしても、そこまで決断したのなら東京都の500人以上をどうして復元しなかったのでしょう。考えられないミスですね。ここをあえて復元しなかったというようなことは想像できないのですが。
     18年の復元以前に誤りを見つけた人は絶対に居ると思います。私が人事異動でそのポストについていたとしたら、制度と実際の乖離が何故かと悩みます。ただ事務取扱要領に書かれていた当時は、自分の勉強不足で到達できていないが、事務取扱要領がある以上どこかに根拠はあるに違いないと考えてしまうように思います。言い訳ではないですがそこを追求するほどの暇はないでしょう。事務取扱要領がなくなっても、十数年以上継続していた統計実務をにわかに変更するのには躊躇します。きっと、善良な職員が何人も何人も悩んだことでしょう。
     そしてそれを、想像ですが「どうにかしましょう」と上司に訴えた人もいるのではないでしょうか。しかし、人員は危機的ラインまで減らされ、「それならお前がやれ」と言われたらそんなことに構ってられるような余裕もなく、当然に担当者レベルの責任や処分ということやそれに関わる業務量も考えると、一般職員レベルの「公表」がなかったことを責めるのは酷な気がします。
     そんなときに一肌脱ぐのがキャリアの仕事ではないのでしょうか。私はキャリア イコール 悪い官僚とは考えていませんが、この件についてはしかるべき部署のキャリアに責任があったと思います。

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  3. おそらく、もともと、サンプル数を減らしてほしいという要望があって、減らしていたのではないでしょうか。しかし、公表している数字と整合しないのでサンプル数を戻したのが04年だと思います。特別監察委の報告書では、04年に復元しなかったのは担当者間の連携ミスとされています。もちろん、統計方法の変更を総務省に届け出ていないのも大問題です。統計委員会の点検をきっかけに、15年に事務要領から抽出の記述を削除していますので、その時点で調査方法自体の誤りは認識したと思うのですが、統計委員会をごまかす結果にしかならなかったことは痛恨です。それを含めて、調査報告書は幹部の責任を痛烈に指摘し、「ガバナンスの欠如」と指弾していますが、上層部が制度の根幹に関わる部分を甘く見て、理解もしていなかったのは間違いなかったのではないでしょうか。もっと根本的に言えば、憲法に基づいた行政か否かという点が心に刻まれていなかったのだと思います。

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  4.  mykzekさんの推測に大いに感心しています。「数理」のキャリアもいたはずなのに統計に対する基本認識が甘かったのでしょう。
     また統計委員会が各省の統計部門を監査することはなかったのでしょうか。なかったとしたらある種の牽制体制に欠陥がありますね。あったとしたら見つけなかった統計委員会も問題です。もちろん統計委員会には隠そうとしていた厚労省に問題があるのは当然としても。

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  5.  基本統計というのに制度の原則を逸脱していたこと。それを”していないかのように”隠していたことに責任はあります。大いにあります。
     と同時に、その動機や情状を推測すると、各都道府県の切実な要望に応えたことにあるのではないかと想像します。厚労省自体のメリットなどほとんどないのではないでしょうか。
     なので、あくまでも情状のレベルですが、沖縄県の要望を踏みにじって強圧的に辺野古の工事を強行するような行政は不問のまゝ、各都道府県の要望にどうにか応えたいとして誤ってしまった今般の問題の責任追及を声高に求めるのは、情において少し引っかかります。少し無茶なことを言っていると自分でも解りながら、マスコミ等が冷静に報道されることを強く望みます。

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  6. 2015年に統計委員会が点検を決めた後に、厚労省が、事務要領から全数調査を抽出調査にしていた記述を削除したようです。その意味では、点検逃れと見られても仕方がないので、厚労省に大きな問題があると思われます。報道では、今後は、都道府県の負担を考慮して、国が調査を引き取るという案を厚労省が出しているようです。人員が毎年大幅に削減されているのにどうやって調査をするつもりなのでしょうか。

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  7.  記事の本文に書きましたが、できもしないことを書いて再発防止策が出来たというのはほんとうに良くありません。
     新聞では賃金構造基本統計調査も同じトーンで論じられていますが、私の知る限り先ず通信調査を行い、不備は再調査し、未提出は会社の帳簿から直接調査までしていたと思います。
     バー、キャバレーまで実地調査せよというのは体制上無理だと厚労省ははっきり言うべきです。
     統計はだ一義的には総務省がすればよいと思います。

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  8.  毎勤統計問題で政府は、ササーッと大西前政策統括官を異動させ、国会に出させないように異常に突っ張っている。
     政府・自民党が言うように「厚労省はなってない」と怒るなら国会の場で事実をはっきりさせて叱り改善させればいいだけだ。
     なぜそれを異常に嫌がるのか。実は2018年の「こっそり復元」は官邸の強い関与があったということではないだろうか。
     森友問題が財務省問題というよりも首相官邸問題であるように、「毎勤こっそり復元」問題も本質は首相官邸問題ではないだろうか。
     大西前政策統括官はただのデクノ坊ではない。悪名高き「働き方改革」推進の重要メンバーであった。

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