2017年11月25日土曜日

放棄する〝60年の絆"

   大阪市の吉村市長(維新)が60年の歴史を持つ大阪市とサンフランシスコ市の姉妹都市関係を解消すると表明した。
 サンフランシスコ市が民間団体が建てた慰安婦像の寄贈を受け入れたためである。

 従軍慰安婦問題の維新の出発点は、2013年の橋下徹大阪市長(当時)の記者団への発言だった。
 要旨は、① 日本軍が従軍慰安婦という制度を持っていたことは事実。
 ② 銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命を懸けて走って行くときに、精神的に高ぶっている集団は、どこかで休息をさせてあげようと思ったら慰安婦制度は必要なのはこれは誰だってわかる。
 ③ ただ、世界各国の軍が慰安婦制度を持っていた。いいこととは言わないけれど、当時はそういうもんだった。それなのに、なぜ欧米で日本だけがそこまで言われなければならないのか。
 ・・というもので、各国の軍に関する事実誤認もあるが、この考えを補足するように、米軍普天間飛行場を訪問した際に司令官に「風俗業の活用」をアドバイスしたが、これには米国防総省報道担当官が「我々の方針や価値観、法律に反する。・・買春によって解決しようという考えは持っていない。馬鹿げている」と一蹴され世界の物笑いになった。

 要するに維新の主張は、児童が先生から叱られたときに「(良くないことを)外の子もやっていたのに何で僕だけ叱られるの」と不満を言う類のことで、あとは碑文や解説文の数字や「てにをは」が気にいらないというものだ。後者だけが問題なら話し合いで解決できる事柄だし、それができないなら地方自治を預かる資質がない。要は人間としての器が小さい。

 しかも、大阪維新が提出した「サンフランシスコ市に再検討を求める決議案」は大阪市議会で否決されているから、全く市長独断の結果がこうである。。
 結局、吉村市長は、大阪市長が抗議すればサンフランシスコ市は折れるだろうと自惚れ、維新の創業者・橋下氏のメンツのために「抗議の書簡を送り続け」たので、「振り上げた拳を下げられなくなってしまったのでは?」(朝日記事の大阪市幹部)というのが的を射た本質に違いない。
 (端的にいえば、橋下徹市長が「慰安婦制度は必要だった」と発言してサンフランシスコ市から発言直後に予定されていた訪問を断られたことを逆恨みして拳を振り上げたというのが話の全て)

 そして私は、その精神に実に嫌な不安を感じる。
 自分たちへの支持を取り付けるために外の敵を作って口汚くののしる。エスカレートさせればさせるほど拳の下ろしどころが無くなる。結局無謀な決断に追い込まれる。というもので、職業生活の中でもその小型版は幾つも見てきたし、近代史を見れば無謀な戦争も同じようなことで停戦の機会をことごとく失い、そうして泥沼にハマっていった。
 現代では、トランプの北向きの火遊びがそうならないことを切に祈っている。

 ちなみにドイツ人がユダヤ人虐殺の記念碑に抗議するような話は聞いたことがない。
 それは現代のドイツ社会とドイツ人がきっぱりとナチスドイツと手を切った。そのように総括したからである。
 それを裏返せば、大日本帝国軍隊の誤りの指摘に対して反発する者は、あの戦時体制を批判するのでなく容認すると意思表示しているようなものである。
 憲法改悪を主張する「維新」の危険性と、さらには精神の幼児性に基づく危険性はそこに繋がっている。

5 件のコメント:

  1.  事の起こりは、橋下徹前大阪市長の「(戦争中は)慰安婦は必要だった」という発言であり、韓国系移民の多いサンフランシスコ市で批判が噴出したことにある。その後は何を言い訳しようが一切、受け付けなかったといわれる。それ程、橋下の発言は酷いものだったから吉村に代わろうが、篭絡しようがSF市の態度は変わっていない。
     いま、外国人観光客、主には中国、台湾、韓国からの客で大阪は大賑わいだが、今度の措置で観光客はうんと減るだろう、勿論、アメリカからの客もである。

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  2.  私は2014年9月12日の「朝日と産経」で従軍慰安婦問題を記述した。
     自称右翼の皆さんは「あれは公娼制度だった」というが、岩波新書・吉見義明著「従軍慰安婦」の参照文献一覧は小さな字で9ページに及んでいる。「強制連行が一切なかった」という主張は全く否定されているし、敗戦時には、日本兵は帰国したが従軍慰安婦は南洋諸島等の前線に置き去りにされている。
     前の記事で書いたが産経新聞鹿内元社長や中曽根康弘元総理は戦争中に慰安所を造った苦労を得々と手記に書いている。
     現代の賢明な日本人なら、このような戦争中の行為は人道にもとる行為であった。犠牲になられた方に心から謝罪し誠意を持って償う。そして、二度とこういうことが行われない様平和と民主主義を高く掲げた憲法を護って世界市民として歩んでいく。こう語り実行していけばいいだけの話である。
     それを、戦争中の資料は焼却し証拠隠滅を図ったことをいいことに、「数字の根拠が不確かだ」とか「てにをは」に類する難癖をつけて居直ろうとするから、他国から未だに避難されるのである。本文に書いたドイツの態度との違いはそこにある。
     維新吉村大阪市長の態度は不誠実の一語に尽きる。こういう不誠実な人々に地方政治をまかせておいてはいけない。
     どうしてこのような不誠実な維新が首長になり得たかの一端は、翌日の記事の「過剰反応社会」、それをけん引する在阪テレビ局等のマスコミにある。これについては今後さらに記述したい。
     

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  3.  サンフランシスコ市の公聴会の動画等がありますが、右翼に担がれた目良浩一という人物が「従軍慰安婦は全て捏造だ。あの売春婦は嘘つきだ」と発言し、市議から「恥を知りなさい」と強く叱られ、そのやりとりの中から市議会全員一致の採択が生まれたらしい。
     そして今回の吉村市長の発表となる。
     つまり、右翼や維新の蛮行は国内で害であるだけでなく、海外でも日本の恥になっている。
     大阪市民の皆さん、こんなことを許しておいていいでしょうか。

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  4.  以下は、中野 雅司氏の発言です。参考になります。

     吉村市長が、サンフランシスコと姉妹都市関係をぶった切ったことによって、なし得たことは、日本の名誉をさらに失墜させ、世界に日本の悪評を定着させたに過ぎない。
     時間をかけて、歴史にのっとって、しっかりとサンフランシスコに説明する必要があることを自分の感情に任せて頭ごなしの交渉をしたことは、決して褒められるべきことではない。
     例え、自分に理があると思っても、それを理解させ、納得させるのが外交交渉ではないのか。
     そもそも外交などやったことがない一市長が調子に乗って、国のマターにまで口出ししたことが大いに誤りであって、抗議をするにとどめておくべきであった。
     本当に恥ずかしい市長を持ってしまった・・・

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  5.  山中 智子 日本共産党大阪市議団幹事長の談話を見つけたので転載したい。

    1.吉村洋文大阪市長は、サンフランシスコ市が「従軍慰安婦像」を設置したことをもって、大阪市とサンフランシスコ市との信頼関係が損なわれたとして、1957年以来の姉妹都市提携を、この12月中にも解消する意向であることを表明した。

    1.吉村市長は、「不確かな一方的な主張をあたかも歴史的な事実であるかのように碑文に刻むことは日本、大阪に対するバッシング」だとしているが、いわゆる「従軍慰安婦」の存在が歴史的な真実であることは、いまや疑いようのない事である。
    1993年の当時の河野内閣官房長官の談話でも、「今次調査の結果、長期にかつ広範な地域にわたって慰安所が設置され数多くの慰安婦が存在したことが認められた」とされているところであり、吉村市長の言い分には道理がない。

    1.同時に、そもそも姉妹都市提携は、様々な考えの違いを越えて、親善交流を強める意志の下に成り立つものであり、今回のような「政治的な考え方」の違いを理由に解消するなどという事はおよそ考えられない。何より、60年にわたって営々と築いてきた両都市の文化交流や親善の「歴史」を一瞬にして無に帰すことにほかならない。

    1.吉村市長は、自らの思い込みや独断によって、きわめて大きなマイナスの影響が発生することに鑑みて、姉妹都市解消を撤回し、今後とも両都市の友好・親善・交流の諸事業を発展させるべきである。

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