2017年4月7日金曜日

河内王朝論

   先日から5世紀の百舌鳥古墳群についていくらか書いてみたが、質問、反論も含めてほとんど反応がなかったから、私の記事が余程稚拙過ぎたのだろうと反省している。
 百舌鳥の3人の天皇陵の治定などは相当私のオリジナルな意見だったのだが・・・。
 それにもめげず、今回、その続きを書こうというのは馬鹿げているに違いないが、乗り掛かった舟である。
 テーマは「革命かクーデターか河内王朝は存在したのか?」である。

 さて、書紀によると、仲哀天皇は神功皇后に乗り移った神の言葉を信じなかったので九州で急死した。その後神功皇后は武内宿禰と三韓征伐に赴いた。神功皇后は懐妊していたが石を腰に当てて出産を遅らせた。仲哀死後十月以上経過して生まれたのが応神でそのため胎中天皇ともいわれている。神功が応神を伴って大和に帰るのを仲哀の(神功以外の)別腹の王たちが武力で阻止しようとして戦った。住吉大社の古文書には住吉の神が神功皇后と結ばれたとある。これらの物語から想像されるのは、応神は仲哀の子ではなく武内宿禰の子であろう。故に崇神から続いて来た大和王朝は仲哀で終了し応神以後の河内王朝が誕生したと言えなくもない。
 以上については粉飾いっぱいの日本書紀を中心に荒っぽく書いてみただけなので、軽く読み飛ばしてもらいたい。

 以下、少し真面目に河内王朝論を書くが、先にバラしておけば、先の3人の天皇陵治定とは違って、ほとんどの論拠は小笠原好彦先生の説によっている。だから、私の説というよりも小笠原説を要約しただけである。

 1 河内王朝論の前提として、墳墓(天皇陵)の位置で王朝の所在地を議論することは正確でない。巨大前方後円墳築造の地と王朝の所在地はイコールではない。つまり、本来は王宮(宮都)の所在地で議論すべきである。
  4世紀の巨大前方後円墳が当初の奈良盆地南部の「大和、柳本」から、盆地北部の「佐紀」に移っている事実があるが、そのことをどの学者も「王権の移動」とは捉えていない。
  つまり、王朝の中枢部が移ったのでなく、王朝(大和連合)内部の主流派氏族が変わっただけ、あるいは墓域が変わっただけなどと考えている。基本的には河内の古墳も同じことである。
  ただし、残念なことに王宮の考古学的な発掘調査はほとんど行われていない。

 2 今でこそ奈良県と大阪府であるが、河内は元々大和の玄関のようなものであって、大和王権の影響下にあった。
  古代は河川と海こそが主要幹線であったから、河内抜きの大和はない。
  大和と河内を別の地域と捉えるのは後の概念である。

 3 河内(和泉を含む)には、大和における和邇氏とか大伴氏、蘇我氏、巨勢氏、葛城氏、平群氏というような記紀にしばしば登場するような有力な氏族は存在しなかった。
  志紀首、土師連、林臣、大鳥連等々記録にある氏族は何れも小氏族で、力を付けた河内の豪族が大和の王朝を倒した、あるいは実質を奪ったとは考えられない。

 4 4世紀から大和王朝はそれまでも縣(あがた)などを開拓して経営地盤を増強していたが、5世紀の王朝は河内の開拓に本腰を入れたと見るべきだろう。
  巨大古墳の築造は周辺の大規模開拓を伴ったことに注視すべきだろう。

 5 5世紀は高句麗の南下による韓半島の緊張、新軍事力としての馬や馬具や甲冑の導入、誇示のための巨大古墳築造などを図ったので、今に見る古市・百舌鳥古墳群が出現した。それらは技術革新著しかった5世紀の古墳の結果論である。
  5世紀の目覚ましい技術革新の理由を「民族征服」「王朝交代」に求めるのは単純である。

 6 以上、あえて言えば仲哀天皇の直系 VS 武内宿禰・神功・応神軍のクーデター的なものである。大和王朝を倒して河内王朝が誕生した事実(証拠)は文献上も考古学的にも見つけることができない。

 7 新羅に源を持つ「騎馬民族が征服した王朝」という話も面白いが考古学上の証拠はないというべきだ。よって、大阪の皆さんには少しあいそがないかも知れないが、どうしても河内王朝論は成り立たない。申し訳ない。

   鯉のぼり孫より爺がはしゃいでる    

2 件のコメント:

  1. 古代史に興味はあるのですが長谷やんの高度な専門的な分析の話になると唯、読ましていただくだけで精一杯と言う所でしょうか。面白い処だけ拾っています。すみません!

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  2.  5世紀に大和の王朝から河内の王朝に権力が移動したという河内王朝論は、非常に著名な歴史学者や考古学者が少なからず唱えられています。
     また下世話な話では、大阪においてそういうタイトルで講演会やシンポジウムが開かれると盛況です。
     それに比べると私のブログの結論はクソ面白くもない結論です。
     ただ、そういう大論争に首を突っ込んだ怖いもの知らずの拙文です。
     面白いところを拾っていただければ幸いです。

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