2016年10月29日土曜日

インダス文明論は正しいか

 この春まで奈良教育大学学長だった長友恒人先生の、非常に刺激的な講義を聴く機会があった。
 先生は元々は原子物理工学から出発して幅広い研究を手掛けられ、今回の話は放射線測定による年代測定等の文化財科学の成果に則ったものだった。

   そこで、何が刺激的だと私が感じたかというと、教科書では「世界四大文明」というがほんとうに4つだけなのかということや、「四大文明は何れも大河文明」といわれているがインダス文明はほんとうに大河文明だったのか、さらにはBC1800年ごろに急速に衰退した原因はインダス河の大洪水のためと言われているがほんとうにそうなのか、あるいはアーリア人の侵入によって破壊されたという通説は正しいか、大王が出現して国家を作ったというのも事実なのか、文字で文章を作ったことが文明の証しというのも証拠があるのか・・・と、教科書の常識にことごとく真正面から「?」「?」「?」を突き付けたからだった。

 結論的に教えていただいたところでは、
 1 インダス文明の遺跡あとは日本列島を超えるほどの広範囲に広がっており、決してインダス河流域だけでない。
 2 遺跡の各種測定から、大河文明というよりも砂漠の上に栄えた都市だった。
 3 アーリア人侵入以前に衰退している。
 4 王墓など王権を象徴する遺跡・遺物が発見されていない。
 5 武器類の遺物の出土が極めて少ない。
 6 文字はあるが文章は発見されていない。(交易のための印章だったのだろう)
 ・・・で、結局インダス文明というのは「都市往来文明」「交易都市」だった。そういうことが判明している諸事実らしい。

 そもそも古代の話になると記紀神話のように非学問的な世界に迷い込むことが多々あるが、現に現代の教科書をもって教えられている「世界四大文明」論自身が神話であることがよく解った。
 通説、定説疑うべし!である。

 蛇足ながら、先生は講義の脱線の中で、日本人のノーベル賞受賞者がこぞって『基礎研究に予算を!』と言っていることなどに触れて、現在の政府・文科省が目先の成果だけを追い求めて予算編成していることを痛烈に批判されていることも印象的だった。

 質疑の中で、「その説はどのような歴史学者が支持されているのですか?」という質問があったが、何という愚問かと私は愉快ではなかった。
 有名な先生の説は信じるが、そうでない場合は内容自体を自分の頭で考えるのでなく端から遠ざける姿勢のように私には思えた。
 こんな面白い問題提起に何故ワクワクしないのかが不思議だった。
 時間も短かったので私自身疑問部分がないわけではないが、あとは各自が考えることである。 
 フィールドワークもせず人の話を聞いたり読んだりしただけで「勉強した気」になっていてはいけないが、まあ「勉強は面白い」と思っている。 

 真理はいつも最初は少数派だった 湯川秀樹

3 件のコメント:

  1.  湯川博士の名言の対極にあるのが「成果主義」とか「効率」という呪文でしょう。
     長友先生の政府・文科省批判は正鵠を射たものでした。

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  2. こと学術研究だけに限らず、世の中、何か刹那主義、というか目先の利益、成果だけを追い求めているような気がします。(この事は一度じっくり書きたいと思いますが、、、。)
    その最たるものはテレビ番組です。昔はじっくりと手間暇かけたドキュメンタリーやドラマでも「夢千代日記」とか「鬼平犯科帳」、「事件」シリーズなどNHK,民放問わず良いものがありました。しかし昨今、猫とグルメと世界ビックリ映像などと、昨日何処かのテレビ局で流した同じ映像を恥ずかしげもなくスペシャル番組だと云って2時間も3時間もタレ流す、もはや製作者のプライドも何もないというていたらくです。一度立ち止まって、足元をじっくり見直す必要があるように思います。
    関係ないですが写真の石板のようなモノ、むかし小学校の校門の前で売っていた「型押し粘土」の型を思い出しました。21日の四天王寺の骨董市で売っているのを見かけ、「なんぼ?」と聞いたら1,000円と云ったので買わずに帰りました。

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  3.  テレビの堕落は同感です。
     写真は本文で触れましたが印章(封泥の型?)ではないでしょうか。交易上誰から誰への品であるかは大事なことだったと思います。
     四天王寺の1000円のものが本物か偽物かは知りませんが、講義のときに見せてもらったスライドでは、紀元前2600年―紀元前1800年の土器がゴロゴロと放ったらかしで、その上で燃料の牛糞をいっぱい乾かしていました。なので、本物だった可能性もあります。
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