2016年9月13日火曜日

松虫

   今は亡き義父は謡曲をたしなんでいた。
 全く教えてもらうことなく別れたことが残念だが、こういうことは世の常といえば世の常のことだろう。

 なので私は謡曲の門外漢なのだが、謡曲の中に「松虫」というのがあることは知っていた。
 それは大阪市阿倍野区に、よく利用していた阪堺電車(チンチン電車)に「松虫」という停留所があったからで、その少し意味ありげで美しい名前に興味を覚えていたからだった。

 謡曲「松虫」の物語の地がそこであり、テーマが友情だというぐらいの浅い理解だが、例によって亡霊が出てきて昔を語り終え、〽虫の音ばかりや残るらん、虫の音ばかりや残るらん、と閉じていく。

   そこで虫の音だが、近頃は街中をアオマツムシのリーリーリーという甲高い声が圧倒している。
 その迫力は「秋の虫の音」の範疇をはるかに超えている。
 外来種だからというようなヘイトスピーチに似た偏見でいうのではないが好きでない。

 そして、アオマツムシ、エンマコオロギ、ツヅレサセコオロギという三大主流派の奥の方から、チンチロリンという本来のマツムシの声を聞くと何故かホッとする。
 偏狭な国粋主義ではないが、本来のマツムシの声には情趣がある。

   「謡曲の時代の松虫は鈴虫のことである」という真っ当な指摘があるが、今日のところは無視する。

 繰り返すが、アオマツムシが好きでないのは彼の国籍や原産地ゆえのことではない。
 ヘイトスピーチは許さない!の写真は甲子園のオーロラビジョン。

5 件のコメント:

  1.  妻や妻の姉は断捨離が大好きです。なので、義父の持っていた謡本も鼓もみんな残っていません。残っていたとしても私はほとんど活用できていないでしょうが、少し残念です。

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  2. 日曜日、貰ったチケットで能「半蔀」「融」を見て来ました。家にある解説書によりますと以前フランスの偉い芸術家たちの文化使節団が「熊野」を見て死ぬ程退屈してこれは刑務所の拷問にしようと言ったとか、後翌年同じフランスの俳優ジャン・ルイ・バローにもっと静かな「半蔀」を見せたら死ぬ程の感動と語って以来フランスと能は仲が良いとの事です。さて私も「熊野」は何とか知っていましたが「半蔀」も「融」もどう読むのか、何の事か解説書を読む迄分かりませんでした。

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  3.  スノウさん、私は全くの門外漢です。ビギナー用の本を持っているだけです。妻の後輩がお能をしていたので間接的に耳学問をしただけです。なので示されている演目?の内容は知りません。半蔀は大阪府四條畷市に蔀屋という割りあい有名な地名があるのでようやく辿り着けましたが。融は10日に平安宮を書いたので源融と想像したらあてずっぽうで当たったという程度です。

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  4. 鼓ぐらい残しておけばよかったのに、残念。刑務所の拷問の話、けっさくですね、以前文楽を見て「二度と見に行かない!」と言った人物を思い出しました。

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  5.  フランスの有名人の発言内容・・私はライブ(ニュース)で視聴したような記憶があるのですが、ネットを手繰ると昭和34年ジャン・コクトウが出てきます。もう少し後のことのような気もするのですが、もう夫婦で「何とかの時の何とかさんが何とか言っていたよな」的な会話が成立しているのですから、靄の彼方の話です。

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