2016年8月13日土曜日

象徴天皇のお気持ち

 日本国憲法を大事にしたい立場に立てば、憲法1条に定められた象徴天皇が「国民の理解を得られることを、切に願っています」と話されたお言葉であるので、一国民として率直に応答して感想を述べたい。

 天皇は生まれながらの身分で基本的には衣食住の心配がないとはいうものの、戸籍も姓もなく職業選択の自由もない。そして、現行のままだと死ぬまでその任務を負うこととなっている。
 そういう面から天皇制を深く考えたこともなかったが、考えてみれば当の本人にしてみればあまりに過酷な制度である。
 なので、天皇自身の高齢化と、制度としては次世代天皇以降も高齢化が続く可能性が高いことなどから、生前退位の方法を希望される気持ちは十分すぎるほど私には理解できる。
 ただ取越苦労かも知れないが、生前退位の制度ができた後に、為政者が意に沿わぬ天皇に陰に陽に圧力をかけて退位を迫り、そういうことで天皇制を政争の具にしないかとの心配はないことはない。
 その心配がないような形であれば、生前退位の制度を皇室典範に盛り込むべきだろう。
 寄り道ではあるが、皇室典範の改正を行うなら、「男子に限る」条項も改正すべきと私は考える。

 次いで、お言葉では「天皇の終焉」にまで言及されたが、その内容は、「過度の自粛はしてほしくない、葬送と代替わりの行事は簡素にしてほしい」というもので、確か2012年の4月には「火葬、合葬、簡素な葬礼」とも報じられたが、そういうものを希望されているのだろう。
 これも、近代国家のそれに準じて行うのがよく、あまりに華美なものは我が国の後進性を表明するようにも思われるから、できる限り意に沿うような簡素化が検討されてよいと思う。

 以上はお言葉の文字上の課題についてである。
 以下は、その行間についての私の理解を述べたい。
 そもそも、お言葉は「象徴としてのお努めについての天皇陛下お言葉」であり、日本国憲法下の象徴という「象徴」という言葉を8回も使用されている。
 それは、「憲法を改正して私を元首にすることだけは絶対に止めてほしい」という悲痛な訴えなのだと私は理解した。
 なぜなら、自民党の憲法改正案の第一条は天皇を元首にすると書いていて、今まさに安倍政権は数の暴力でそれを迫ろうとしているからである。
 
 元首の問題だけでなく、2013年80歳の会見では憲法について、「戦後の我が国の人々と知日派の米国人の協力によって作成されたもの」「よって守るべき大切なもの」と発言され、言うならば、自民党や日本会議のいう「押しつけ憲法」論を否定さている。

 横道ながら、自民党憲法改正案の「国旗・国歌の尊重」についても、園遊会の折の米長東京都教育委員の発言に、「強制になるということではないことが望ましいですね」と返されたことはあまりに有名だ。
 
 さらに付言すれば、サッカーWカップ日韓共同開催の折にも同趣旨で語られていたことだが、2010年平城遷都1300年祭の折には、「平城京に在位した光仁天皇と結ばれ、次の桓武天皇の生母となった高野新笠(たかののにいがさ)は、続日本紀によれば百済の武寧王を始祖とする渡来人の子孫だった」と自らの祖先に韓半島出身者のいたことを率直に述べられ、私はこの天皇の誠実さには一目置いていた。

 伝えられているところによれば、よって安倍首相や日本会議はお言葉とお言葉に至る経過に〝怒り心頭”とも言われている。
 ネットの世界ではその種のメンバーから「天皇は左翼になった」「生前退位など認めるな」的な言葉すら踊っている。
 ただし、そんなことで「安倍首相が弱っているらしい」などと笑っていてはいけない。彼らは「生前退位には憲法改正が必要だ」(実際には必要ない)と世論を逆手にとった暴挙をすら企んでいる。

 こういう状況下であるから、国民一人一人が素直に議論し発言すればよいと私は思う。
 「天皇問題に発言するのは難しい」などと躊躇していると、「現人神」にしたい面々の思う壺だろう。
 保守も革新も手を携えて現天皇を守り、戦前回帰を企む右翼を封じ込めなければならないと私は思う。
 ヨーロッパでは、ナチに対抗するために、〝神を信じる者も信じない者も”手を取り合ってレジスタンスを行なった。

4 件のコメント:

  1. ルイ・アラゴンですね?

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  2.  言うは易いが、ほんとうにこの国でそういう市民革命をどう具体化するか。yukuriさん、ご意見をお聞かせください。

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  3.  長谷やん、難しい問題に誤解を恐れず、勇気をもっての発言だと感心しました。
     考えてみれば、天皇という立場がもたらす生まれながらの負の側面については、これまであまり議論がされなかったように思います。今回の天皇の表明は、その意味で当事者の率直なお気持ちとして無理なく読むことができました。特に死ぬまで仕事を終えることはないという過酷さには十分考えさせられました。
     ただ皇位継承に、これまでのように、死という客観的に検証可能な事実を唯一の条件にするのとは異なり、生前退位は天皇の意思という検証困難な要素を持ち込むのですから、長谷やんも危惧する問題も含め、さまざまな問題があるのも事実でしょう。
     さらに私も誤解を恐れず発言しますと、やはり天皇制や王制という個人の能力には関係なく「生まれ」だけが「尊い」という制度は、近代の民主主義社会の原則に照らせば、ルールに反
    するおかしな制度というほかないと思います。
     そしてこんな議論も、現天皇の誠実な人柄や憲法に対する評価すべき発言などに対するメディアなどの好意ある論評の前に、天皇または天皇制批判が憚られることのないよう注意が必要でしょう。
     ともあれ、長谷やんのブログ記事がこの問題に一石を投じたことは事実であり、さらにこれが発展することを期待しています。

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  4.  和道さんのコメントをじっくり読ませていただきました。
     生前退位の客観性の検証、さらに将来の基本的なあり方等大いに参考になります。
     ご指摘のとおり、天皇制批判も含めもっとフランクに話し合えることが大切でしょう。
     そのためには、社会問題に関心のある人々も自分の言葉で語ることが必要な気がします。

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