2016年2月6日土曜日

アフガンの真実

  1月30日付け朝日新聞に、NGO「ペシャワール会」現地代表中村哲医師のインタビューが掲載された。
 米軍が「対テロ戦」を掲げてアフガンの空爆を始めてから15年。氏は「私たちのいる東部は、旧ソ連が侵攻したアフガン戦争や、国民の1割にあたる200万人が死んだとされる内戦の頃より悪い。この30年で最悪です」と述べている。意外だった。
 遅々とした歩みであるが復興しつつあったのではなかったのか。また、タリバーン時代よりはましではないのか。

 それらについて氏は「タリバーンは海外からは悪の権化のように言われますが、地元の受け止めはかなり違う。各地に割拠していた軍閥は暴力で支配し賄賂を取り放題。それを宗教的に厳格なタリバーンが押さえ、住民は当時大歓迎しました。この国の伝統である地域の長老による自治を大幅に認めた土着性の高い政権でした。そうでなければ、たった15,000人の兵士で全土を治められない。治安も良く医療支援が最も円滑に進んだのもタリバーン時代です」と。やはり意外な現地報告だった。私はタリバーンの仏教遺跡破壊に良い印象を持っていないが。

干ばつでこんなであった地が

灌漑でこうなった
  氏らは1980年代90年代は医療支援だったが、今は灌漑事業を中心に行っている。
 その理由を氏は「2000年からの記録的な干ばつで何百万という農民が村を捨てました。栄養失調になった子が泥水をすすり、下痢でいとも簡単に死ぬ。診療待ちの間に母親の腕の中で次々に冷たくなるのです。彼らの唯一にして最大の望みは『故郷で家族と3度のメシを食べる』です」と語り、7年かけ27キロの用水路を掘り、3千ヘクタールが農地になり15万人が地元に戻ったらしい。 20年までに16,500ヘクタールを潤し65万人が生活できるメドが立っている。
 その工事は、日本の募金活動により、毎日数百人の地元民が約450~630円の賃金で作業しているのだと。
 驚いたのは、「元傭兵もゴロゴロいます。『湾岸戦争も戦った』と言うから『米軍相手か』と聞くと『米軍に雇われていた』」というくだりで、父親が家族のために命をかけて出稼ぎに行くリアルを教えられた。(あんまり宗教戦争・宗派争いと見るのは正しくないのかもしれない)

 それにしても、あの戦争と混乱の中でよく30年間も活動ができたもので、それについて氏は「日本人がしているという信頼が大きいのは間違いありません。アフガンで日露戦争とヒロシマ・ナガサキを知らない人はいません。3度も大英帝国の侵攻をはねのけ、ソ連にも屈しなかったアフガンだから、アジアの小国だった日本が大国ロシアに勝った歴史に共鳴し尊敬してくれる。
 戦後は廃墟から復興し、一度も他国に軍事介入したことがない姿を称賛する。言ってみれば、憲法9条を具現化してきた国のあり方が信頼の源になっているのです」と・・・
 どこかでトルコの人々も親日的で、その理由の一つが日露戦争であったような話を思い出して複雑な感情が湧かないわけではないが、大国の横暴を見つめてきた諸民族の素朴な感情なのだろう。

 ただ注目すべき氏の言葉は、「90年代までの圧倒的な親日の雰囲気はなくなりかけている。嫌われるところまではいっていないかな。欧米人が街中を歩けば狙撃される可能性があるけれど、日本人はまだ安心。漫画でハートが破れた絵が出てきますが、あれに近いかもしれない。愛するニッポンよ、お前も我々を苦しめる側に回るのか、と」とあった。

 そういう現地のナマの声の続きとして、「日本人が嫌われるところまで行っていない理由のひとつは「自衛隊が軍服姿を見せていないところだ」というこれも私には意外な答えで、「米軍とともに兵士が駐留した韓国への嫌悪感は強いですよ」とも。(これも初めて知った指摘事項だ)

 最後に、「自衛隊にNGOの警護はできません。アフガンでは現地の作業員に『武器を持って集まれ』と号令すれば、すぐに1個中隊ができる。兵農未分離で全員が潜在的な準武装勢力です。アフガン人ですら敵と味方が分からないのに、外国の部隊がどうやって敵を見分けるのですか?机上の空論です」
 「軍隊に守られながら道路工事をしていたトルコやインドの会社は、狙撃されて殉職者を出しました。私たちも残念ながら1人倒れました。それでも、政治的野心を持たず、見返りを求めず、軍事力に頼らない民生支援に徹する。これが最良の結果を生むと、30年の経験から断言します」と結ばれていた。

 読みごたえがあり、考えさせられるインタビューだった。世の中、知らないことばかりだ。
 このインタビューは大いに勉強になった。
 で、集英社新書、中田考著「イスラーム 生と死と聖戦」を読み返したが、タリバーンにしてもISにしても手持ちの材料が少なすぎて頭の整理が追いつかない。評論できるだけの意見はない。

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